× close

お問い合せ

かもめの本棚に関するお問い合せは、下記メールアドレスで受けつけております。
kamome@tokaiedu.co.jp

かもめの本棚 online
トップページ かもめの本棚とは コンテンツ一覧 イベント・キャンペーン 新刊・既刊案内 お問い合せ
TOKYO銀座めぐり
イラストレーター(文と貼り絵)
きりたにかほり
第4回 気さくな街、十条銀座
北区十条。JR十条駅前からつづく十条銀座は、
加盟店約200店舗、北区最大の商店街。
アーケードに覆われたメイン通り、そこからのびる脇道をあわせて
十条銀座と呼んでいます。
そして、このアーケードが切れた先からはじまるのが十条富士見銀座。
このふたつの銀座が今回の舞台です。
近くの神社で開かれていたお祭りにも行ってきました。


北口の改札を出てすぐ、
カメラ越し、オリンピックカラーの看板の前で
5年後の自分に思いを馳せていると、
編集さんに声をかけられました。

「(十条銀座は)どこから始まりますか?」

未来はすぐそこからです。



駅前からはじまる十条銀座のアーケード。
透明な天井から穏やかな光が差し込んで、なんだか懐かしい気持ちになります。
静かに続く石畳もレトロかつおしゃれ。


魚屋、八百屋、美容院と、
香りよく商店街らしくなってきたところで、
屋台の看板がみえました。

「わあ!」


おもわず喜びの声が漏れてしまいました。
右手にのびる大きな通り。
道を挟むように、
たくさんの屋台が向かい合って並んでいます。

6月最後のこの日、
商店街にほど近い十条富士神社、通称お富士さんでは、
富士山の山開きを祝う「十条富士神社大祭」が開かれており、
屋台は、この分かれ道から神社まで徒歩約10分の道のりに
ほぼ休みなく続いていました。


聞くだけでわくわくするのが屋台。
行くだけでしあわせなのがお祭りです。


はやる気持ちをおさえ、
まずは神社にご挨拶、と、
線香の束を手に、富士山を模した富士塚の頂をめざす列に並んでいると、
上の方からバオーンとやわらかく大きな音が響きました。


顔をあげれば、そこには、ホラ貝を吹くおじさんの姿が。
なにより頭より大きなホラ貝のサイズ。
そしてその深くまろやかな音色に驚きました。

「初めて聞きました!大きいんですね!」

おだやかな笑顔のおじさんに短く感動を伝え、
線香をくべて山頂への参拝を終えると、屋台の列に戻りました。

いかやき、やきそば、金魚すくい。
射的もたのしそう!
ときめきがノンストップ。
早速、袋がかわいいベビーカステラを手に入れて
物見気分でカルメ焼き屋さんの前に立ち止まっていると、
店の前にいたおじさんが、
カルメ焼きを作るおじさんを紹介してくれました。


「この人は顔がいいからね、みて。おれなんかは顔はだめ、口ばっかり。」


おじさんはハニカミながらもカルメ焼きを作り続けています。


小さな片手鍋をつかって砂糖をあたため、
ふちからじゅわじゅわ音がしたあと、火からおろし、
タッパーからとりだした白いなにをかほんの少し加えて
またあたためる。
そうしながら木べらで一息にかき混ぜると
透明だった砂糖が全体に白濁していき、
頃合いをみて、火からおろす。

一瞬冷やして待っている間に
ぶわあっとふくらむその美しさは、
まるで命がふきこまれているかのようで、
何度も、うわあ、と感動しました。

「簡単そうで、難しいんですよ」

おじさんは、このワザをおばあさんから教わって、
習得するまで3年かかったそうです。

「もう、都内では、うちと、浅草にあるらしいけどそのふたつくらいですよ」

男前の職人さんからたくさんお話をうかがって、
大きなカルメ焼きを買いました。



商店街にもどると、七夕かざりがたなびいていることに気づきました。
そういえば脇道の街灯も個性的で魅力的だわ、と、きょろきょろしながら、
十条富士見銀座へ。


緑豊かにツタが絡まる八百屋を指差しつつ通り過ぎようとした頃、
店先のパイプ椅子に腰掛けたおじさんから
「これ撮っとかないと」と、撮影をおすすめされました。

実に気さくなおじさんです。

はーい、と返事し、
ツタの八百屋の写真を一枚撮ってしばらくすすむと、
にぎやかな鐘と太鼓の音が聞こえ、ちんどん屋さんたちに出会えました。
商店街で今日から始まった福引きのお知らせのようです。

そばにあった抽選会場に立ち寄って
最初に目に入ったのは、壁のように積まれたティッシュ箱。
愛され、選ばれ、積み重ねられたティッシュたちに
やや畏敬の念をおぼえました。

見学だけにも関わらず、こころよい笑顔のおもてなしを受け、
手回しの抽選器を見せてもらいました。
使い込まれた風合いとそこからうまれたであろう数々のドラマを想像し、
なんだかジンとして、福引き抽選器の写真を撮っていると

「景品じゃなくって抽選器の写真撮る人は、はじめてだわ、あはは」

と、声が。

えへへ。

ベテランであろう、係の方に
たのしんでいただけて光栄です。

お礼を伝え、いささかハニカミながら会場をあとにしました。


通りに掲げられた福引きのポスターは、手書き。
街へ行きわたる愛を感じ、やっぱりジンとしながら、
やがて、十条富士見銀座の終わりに到着。


さて、やあ、なんだか気さくな街でしたね、と、折り返し、
十条銀座の中頃にあった和菓子屋さんで休憩。

編集さんは抹茶あずき。
わたしはミルク入り、コーヒー味の
こだわりリッチなかき氷をいただきました。

もうすっかり夏ですね。

今度は秋頃、ゆっくり散歩に訪れてみたいです。


※十条銀座はJR埼京線「十条駅」北口すぐ。十条富士見銀座はJR埼京線「十条駅」北口から徒歩5分、JR京浜東北線「東十条駅」北口から徒歩6分


〈次はどの銀座に行きましょうかしら。お楽しみに。〉


※きりたにさんのホームページ「たいようのみやこ」
http://taiyonomiyako.com/index.html
ページの先頭へもどる
【きりたに・かほり】
1984年秋田県生まれの香川県育ち。熊本県立大学卒業後に上京し、都内制作会社にデザイナーとして勤務。現在は「世界をあたためたい」と絵を描き、関東を中心にイラストの制作や似顔絵屋さんなど行っている。
新刊案内