× close

お問い合せ

かもめの本棚に関するお問い合せは、下記メールアドレスで受けつけております。
kamome@tokaiedu.co.jp

かもめの本棚 online
トップページ かもめの本棚とは コンテンツ一覧 イベント・キャンペーン 新刊・既刊案内 お問い合せ
美しいくらし
伊豆大島ぐらし トラベル・ジャーナリスト
寺田直子
第7回 こだわりの食材は伊豆大島産
 2021年2月にHa Cafeをオープンしてから10カ月が経ちました。新型コロナウイルス感染症緊急事態宣言下で臨時休業をしたり、テレビドラマ「東京放置食堂」の撮影にお貸ししたりと、3カ月ほどは営業できなかったので実質、開店していたのは7カ月ほどでしょうか。オペレーションやコーヒーを淹れる自分のスキルはまだまだですが、それでもゆっくりと「うちの店」らしさが生まれてきているように感じています。

看板メニューのピザトースト

 Hav Cafeのメニューはシンプルです。私が偏愛するコーヒーを中心に、そのお供となるフード類やドリンクで構成しています。中でも人気があるのがピザトーストと厚切りトースト、そしてレーズントーストです。
 コーヒー以外のメニューで心がけているのが、可能な限り伊豆大島産の食材を使用する、という点。トースト類に使っている食パンは、島内にある「黒潮作業所」さんが焼いています。黒潮作業所は社会福祉法人「大島社会福祉協議会」が経営する障がい者の雇用を担う施設で、その作業としてパンを製造しています。添加物をいっさい加えずに、国産小麦、大島の塩「海の精」、テンサイなど良質な素材を使って焼き上げたパンは本当においしい。島内のスーパーに置いてあるのを見つけて、何度も試食を繰り返した後で、ぜひともHav Cafeで使いたいと思い、作業所にコンタクトをしました。

 何かを依頼する際、私は可能なかぎり直接、自分自身で会い、お願いするように心がけています。長年にわたる雑誌やガイドブックの仕事で、国内外の一流ホテル、有名シェフから老舗店、町の食堂、さらに漁師さんや生産者さんなど数えきれないほど多くの場所、企業、個人の方々に取材や撮影のお願いをしてきました。その経験は、多少のことではひるまない度胸と交渉力をもたらしてくれました。
 ポイントは私を売り込むことでも、また、Hav Cafeのため(だけ)でもないということです。私がその商品を心から素晴らしいと思い、より多くの人たちに知ってもらいたいと強く願っていること。あとは、その商品を育んできた方々へのリスペクトをこめて、扱わせてもらいたいと誠実にお願いするだけです。それが結果として、受け入れてくださる側にとっても新しい商機となり、宣伝につながる可能性があるということでもあります。

黒潮作業所の皆さん


 このときも黒潮作業所の電話番号を調べ、忙しくない時間帯を選んで所長の下司さんとお話しをさせてもらい、ごあいさつの段取りをつけました。ありがたくもパンを卸していただけることになり、今ではHav Cafeの看板メニューに欠かせないものとなっています。
 使うのは最も適した厚さにスライスしたホールウィート(全粒粉)。ピザトーストならタマネギ、ピーマン、サラミ、チーズをのせてこんがりと。野菜も可能な限り島で採れたものを使います。厚切りトーストやレーズントーストには伊豆大島の特産として知られる大島バターをたっぷりのせますが、ここにもこだわりが。大島バターはサッパリとした味が特徴で、私は少しコクを出したいと考えました。そこで伊豆大島を代表する椿油をブレンドし、ホイップしてみたところ、これが相性抜群! バターの塩味と椿油の風味が溶け合い、とてもおいしく仕上がったのでした。
 レーズントーストは、こだわりの1.2センチにスライス。この薄さがカリっとセイボリーな焼き上がりと、レーズンみっしりの果実感を際立たせてくれます。何度も厚さを変えて試した結果、生まれた絶品トーストです。いずれも伊豆大島でしか味わえないメニューとして観光客の方に大好評。Hav Cafeの人気メニューとなりました。

大島牛乳を率いる柳瀬聡子さん

門外不出の大島バター


 伊豆大島には牧場があり、(株)大島牛乳が乳製品をつくっています。
 かつて伊豆大島は酪農の島でした。昭和初期には1200頭あまりの牛が飼育されていましたが、島民の減少や大手企業の台頭などで、一度は工場閉鎖に。2008年、かつての島の文化を継承しようと、有志によって現在の大島牛乳として再スタートしました。
 現在の社長は、なんと24歳の柳瀬聡子さん。通称「島高(しまこう)」と呼ばれる都立大島高校の農林科を卒業している酪農女子です。大島牛乳ではミルク、バター、そしてアイスクリームを製造。いずれも手作業で仕上げるために生産量が少なく、また賞味期限も短いため門外不出。島に来たらぜひ、味わってもらいたい伊豆大島の自然が育んだ恵みです。

 Hav Cafeでは、トーストにバター、カフェラテにミルク、アフォガードにはアイスクリームを使用。黒潮作業所と同様、メニュー構成になくてはならない存在です。

 パンにしてもミルクやバターにしても、客席わずか8席の小さなカフェで使う量はしれています。それでも、今までにないアプローチで観光客や島民の方に伊豆大島のおいしいものを知ってもらえることが、生産者の方々の励みに少しでもなればと願うばかり。私自身、何よりも「わぁ、おいしい!」というお客さまの明るい声を聞くことがうれしく、やりがいにつながっています。(つづく)

定価2,200円(税込)

好評販売中!
『増補版 フランスの美しい村を歩く』



 フランス観光開発機構の推薦に基づき、トラベル・ジャーナリストの寺田直子さんが厳選した美しい30の村々の魅力を紹介して好評を得た『フランスの美しい村を歩く』。増補版はさらに、パリからアクセスがよく歴史や芸術、食の魅力にあふれるフランス北西部の5つの村を新規取材・書き下ろしで加えました。アクセスや訪問ガイドも見直してパワーアップ。“旅のプロ”が案内するフランスの通な旅の入門書として、また、あたかも著者と一緒にまだ見ぬ村を訪ね歩くかのような紀行エッセイとして、読み応えのある一冊です。

◎『増補版 フランスの美しい村を歩く』の詳細はコチラ⇒


【寺田直子のハッピー・トラベルデイズ】
http://naoterada.exblog.jp/
ページの先頭へもどる
【てらだ・なおこ】
トラベルジャーナリスト。東京生まれ。日本及びシドニーでの旅行会社勤務を経て、フリーランスライターとして独立。旅歴約40年。訪れた国は約100カ国。ホスピタリティビジネス、世界の極上ホテル&リゾートに精通。雑誌、週刊誌、ウェブ、新聞などに寄稿するほか、ラジオ出演や講演など多数。豊富な取材経験を活かし、インバウンドを含め日本の地方の活性化、観光立国化に尽力、関連セミナー、ワークショップ、講演などに登壇するほか、山口県観光審議委員(~2017)、青森県の観光アドバイザーを務める。2013年、第13回フランス・ルポルタージュ大賞インターネット部門受賞。JATA ツアーグランプリ審査員(~2018)。Yahoo!Japan ニュース・エキスパートとして「サスティナブル」「レスポンシブル・ツーリズム」を軸に最新の旅トレンドを発信中。著書に「ホテルブランド物語」(角川書店)、「ロンドン美食ガイド」(日経 BP 社 共著)、「イギリス庭園紀行」(日経 BP 企画社、共著)、「泣くために旅に出よう」(実業之日本社)、「フランスの美しい村を歩く」(東海教育研究所)など。「ホテルブランド物語」は韓国で翻訳出版され、ホテリエたちの教本的存在になる。現在、東京都・伊豆大島を拠点に執筆のかたわら古民家カフェ Hav Cafe を運営。
新刊案内