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美しいくらし
伊豆大島ぐらし トラベル・ジャーナリスト
寺田直子
第1回 カフェの名前はHav Cafe
『フランスの美しい村を歩く』の著者でトラベル・ジャーナリストの寺田直子さん。これまで100カ国近い国を訪れ、1年の半分近くを国内外の宿泊施設で過ごしてきました。コロナ禍が長引き、どうしていらっしゃるかと思っていたら、「伊豆大島に拠点を移しました!」と元気な便りが。なぜ伊豆大島? 島ぐらしの様子は? 海風かおる新連載です!

 今年から伊豆大島に拠点を移し、古民家を改装した小さなカフェを営みながら執筆活動を続けています。島に移住した最大の理由は、「ここでなら暮らしていける」と感じたから。それも10年ほど前から、そう思ってきました。

 ご存じ、伊豆大島は東京都に属する伊豆諸島のひとつ。名前のとおり伊豆諸島で最も大きく、そして都内から最も近い島でもあります。

島の中央にそびえる三原山からの眺望


 伊豆大島には10数年前から遊びに行っていました。ちょっと仕事に疲れたり、人生の岐路でうじうじと悩んでいたり。徹夜明けで妙に頭が冴えて、しかもその日は予定がなかったり。そんな少しリセット&リフレッシュが必要なときにふらりと伊豆大島を訪れる。私にとってストレス解消のとっておきの存在が伊豆大島だったのです。

遠く富士山を臨む大島空港

 なぜ、伊豆大島に行くようになったのか。それは私が生まれ育った東京・調布市にある調布飛行場から大島に行けるというのを知ったのがきっかけでした。なんと所要時間はたった25分。新中央航空による19人乗りのドルニエ機が調布~大島間を運航。大島以外にも新島、神津島、三宅島に飛んでいますが、大島までの25分フライトという利便性は突出しています。わが実家は調布飛行場からタクシーで10分程度。帰りは大島の空港を出発して40分後には家に着いているという近さです。ついさっきまでビーチサンダルで潮風を受けていたのに、今はもう都内の家にいる……。そんなワープ感がたまらなく刺激的で大島行きを加速させ、何度も通うことに。友人知人、仕事先でも、ことあるごとに「伊豆大島はおもしろいよ!」と言ってきました。

役場もある島の中心地に近い元町港

 伊豆大島の魅力――それは、「都内から近いのに島時間を濃厚に感じる」点に尽きます。飛行機だけでなく、竹芝桟橋から東海汽船の高速ジェット船でも1時間45分。港に降り立つと空の広さと山の緑がいっきに目に飛び込み、その雄大さに「うわー」と毎回、心の中で叫ぶほど。温泉もあれば、誰もいないビーチもある。相模湾の対岸には、伊豆半島と晴れていれば富士山も。コンビニエンス・ストアがないことにも驚きました。
 「ここも東京なのに」
 そう思いながらゆるりと島時間になじんでいく感覚が楽しくて楽しくて、伊豆大島通いを続けてきたのでした。

 私は来年で60歳。この5年ほど、これから先の一人で生きていく方向を考えていました。フリーランスのトラベル・ジャーナリストとして30年ほどやってきましたし、今もやりがいある仕事だと思っています。でも、フットワークがあってこその職業だとも思っていますし、そろそろ次の世代に自分のいる位置をゆずっていくのも先にいる者の役目のようにも感じていました。また、30年続けてきてやり遂げた気持ちもありました。会社員と異なり、フリーランスは仕事の辞めどきを自分で決める必要があります。ずっと続けていくことも考えましたが、現実的に思えませんでした。

島の南端にある波浮港

見晴台から俯瞰した波浮港


 そんなことを日々、思っている中で出会ったのが今、カフェを営み、私が暮らす古民家でした。3年前の2月のことです。場所は、伊豆大島の南部に位置する波浮(はぶ)港。私が「大島に暮らすなら、絶対ここ!」と決めていたのが、波浮港です。しかも思い描いていた希望のロケーションにほぼ近い。売買物件として出ている写真を見て、「あ、あの家だ」とピンとくるほど何度も前を通っていた場所に、それはあったのです。ただし、20年ほど人が住んでいなかったということで、外も中もまったく手入れがされていない状態。改修しないと住めない古い物件なのは一目瞭然です。それでも私には、この家が生まれ変わることができるという確信のようなものがありました。家との縁を感じたのです。

 そこからの決断は早かったです。仕事の合間に下見をしたのち、買うことを決意しました。そのときは都内に借りている家と行ったり来たり、いわゆる「デュアルライフ」を想定していました。結果的に新型コロナ禍での混沌とした状況や仕事の減少・変化などもあり、思いきって都内の家は解約し、伊豆大島に拠点を移す決心をしました。

港周辺にはネコが多い

 10数年、通ってきたとはいえ、暮らすとなるとまだまだわからないこと、知らないことばかり。そのたびにご近所さんや島でできた友人たちに支えてもらっています。
 この連載では、そんな東京都の島ぐらしと、私を支えてくれる自然、人などにフォーカスをしてご紹介したいと思っています。

 そうそう、カフェの名前はHav Cafe。「ハブカフェ」と呼びます。もちろん波浮にかけていますが、もうひとつ。デンマーク語でHavは「海」を意味します。目の前に波浮港が広がる場所にできた小さなカフェにふさわしい店名だと思っています。(つづく)

(写真提供:寺田直子) 

定価2,200円(税込)

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【寺田直子のハッピー・トラベルデイズ】
http://naoterada.exblog.jp/
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【てらだ・なおこ】
トラベルジャーナリスト。東京生まれ。日本及びシドニーでの旅行会社勤務を経て、フリーランスライターとして独立。旅歴約40年。訪れた国は約100カ国。ホスピタリティビジネス、世界の極上ホテル&リゾートに精通。雑誌、週刊誌、ウェブ、新聞などに寄稿するほか、ラジオ出演や講演など多数。豊富な取材経験を活かし、インバウンドを含め日本の地方の活性化、観光立国化に尽力、関連セミナー、ワークショップ、講演などに登壇するほか、山口県観光審議委員(~2017)、青森県の観光アドバイザーを務める。2013年、第13回フランス・ルポルタージュ大賞インターネット部門受賞。JATA ツアーグランプリ審査員(~2018)。Yahoo!Japan ニュース・エキスパートとして「サスティナブル」「レスポンシブル・ツーリズム」を軸に最新の旅トレンドを発信中。著書に「ホテルブランド物語」(角川書店)、「ロンドン美食ガイド」(日経 BP 社 共著)、「イギリス庭園紀行」(日経 BP 企画社、共著)、「泣くために旅に出よう」(実業之日本社)、「フランスの美しい村を歩く」(東海教育研究所)など。「ホテルブランド物語」は韓国で翻訳出版され、ホテリエたちの教本的存在になる。現在、東京都・伊豆大島を拠点に執筆のかたわら古民家カフェ Hav Cafe を運営。
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