× close

お問い合せ

かもめの本棚に関するお問い合せは、下記メールアドレスで受けつけております。
kamome@tokaiedu.co.jp

かもめの本棚 online
トップページ かもめの本棚とは コンテンツ一覧 イベント・キャンペーン 新刊・既刊案内 お問い合せ
美しいくらし
伊豆大島ぐらし トラベル・ジャーナリスト
寺田直子
第6回 「風待屋」の裏側にあるもの
 今年の夏は、私が経営するHav Cafeにとり、また伊豆大島にとって大事件が起こりました。
 なんと伊豆大島を舞台にしたテレビドラマの撮影が舞い込んだのです。それもHav Cafeが重要な撮影スポットとして。

 ドラマの名前は『東京放置食堂』。テレビ東京の深夜枠で、主演は片桐はいりさん! 映画『かもめ食堂』やNHKの朝ドラ『あまちゃん』などに出演された、私も大好きな俳優さんです。エッセイストでもあり、自ら「もぎり嬢」もこなすなど、映画館をこよなく愛する文化人としての顔もお持ちの方。しかも、意外なことに今回が連続ドラマ初主演というではないですか!

片桐はいりさん(左)と工藤綾乃さん(©︎「東京放置食堂」製作委員会)


 きっかけはこんな感じでした。
 7月のある日、営業中のHav Cafeを外からのぞく5、6人の人影。うちのカフェは、光の反射の関係で外から中がよく見えません。ですので、窓ガラス越しに営業中かどうか、のぞかれる人も少なくないのです。でもこの日、窓ガラスに張り付くように中を入念にのぞいているのは、サングラスに黒いTシャツ、柄モノのシャツなど、あきらかに観光客ではない風貌の人たち。しかも全員、男性。怪しすぎる! 謎! と、そのうちの背の高い男性がひとり、少しだけガラス戸を開けて中に入ってきました。

 「あのぅ……」
コワモテの風貌からは想像できない、驚きの腰の低さ。入店ご希望だったのですが、Hav Cafeではコロナ感染予防もあり1グループ3名までとお願いしています。「5人のご入店はゴメンなさい、無理なんです」。私がそう告げると、「そうですよねぇ、ハイわかりました」と、そろそろ後ずさりしてそうっと退出するコワモテさん。実は、この人こそが『孤独のグルメ』のドラマ化を立ち上げた名物プロデューサーY氏だとわかるのは後のことです。

ドラマにしばしば登場する波浮港近くのバス停

 彼らが去った後、いつものように静かな空間で営業を続けていると、なんとまた、あの5人組が店の前に戻ってきているではないですか! 今回もやや遠慮気味ながら中を見回し、外観の写真を撮っている。怪しいけれど、その真剣さと裏腹なユーモラスな様子が面白すぎて、カウンターにいた常連のお客さまと「何だろうね、あの人たち?」と話しながらケラケラ笑ってしまいました。
 そして、その夜。閉店後の後片付けを終えSNSをのぞくと、見知らぬ人からのダイレクトメッセージがありました。5人組の中のおひとりで、「伊豆大島を舞台にしたドラマをつくりたいと考えています。その舞台のひとつとしてHav Cafeさんを撮影させていただきたいと思っています。お話しだけでも聞いていただけないでしょうか?」

 これで合点がいきました。5人組さんは、ロケハン(ロケーションハンター)中だったのです。この時点ではドラマの詳細も、出演者の情報もまったくありません。でも、外から熱心に店内を見る様子と入店した際のYプロデューサーの対応などから、誠実な仕事をしていると直感。話を聞く価値はあると判断しました。ラッキーなことに翌日はカフェの定休日。店内をお見せするのも問題ありません。

 そして翌朝、あらためてYプロデューサーを筆頭にドラマの監督をするアベラヒデノブさん、現場スタッフなどのみなさんをお迎えし、しっかりした企画書を拝見し、1階のカフェ部分、2階の居住スペースなど家の中をお見せしました。さらに、波浮港というのがどういう歴史を持っているのか、Hav Cafeのある通りが、かつてはどれくらいにぎわっていたのか。そんなこともお話ししました。
「波浮港は風待ちの港です」
 この言葉から、ドラマの舞台となる居酒屋「風待屋」が誕生しました。波浮を舞台としたドラマにふさわしい、とてもステキな屋号だと思います。

ひんやりした雰囲気が漂う旧貯氷庫

 そして、Hav CafeからYプロデューサー、アベラ監督への大きなサプライズがカフェの奥にある漁協の旧貯氷庫のユニークな空間でした。ドラマでは、奥ののれんをくぐり、カラリと扉を開けると異世界にワープ!? と思うような古いコンクリートの吹き抜け空間が現れます。「あれはセットなの?」「ホントにあれ、あるの?」と島の人たちにも聞かれますが、本当に現存します。
魚を保冷する氷を貯める空間として、かつて活躍していたまぎれもない波浮港の歴史を語る遺構。ドラマで登場したことで見に来る人も増えましたが、老朽化しているので安全のため一般に公開はしていません。カフェ店内からガラス越しに見ることはできますので、ご興味あればぜひ、お越しください。

 ドラマの舞台という思いがけない経験をしましたが、これも波浮港のレトロな風情や伊豆大島のダイナミックな自然、食文化(クサヤですね)があったからこそ。それでも、撮影のきっかけをHav Cafeがお手伝いできたことをうれしく思っています。(つづく)

★Hav Cafeが舞台になったテレビドラマ「東京放置食堂」の最終回が11月3日(水・祝)の深夜1時(4日午前1時)よりテレビ東京で放映されます。詳しくはコチラから↓
https://www.tv-tokyo.co.jp/houchishokudo/

定価2,200円(税込)

好評販売中!
『増補版 フランスの美しい村を歩く』



 フランス観光開発機構の推薦に基づき、トラベル・ジャーナリストの寺田直子さんが厳選した美しい30の村々の魅力を紹介して好評を得た『フランスの美しい村を歩く』。増補版はさらに、パリからアクセスがよく歴史や芸術、食の魅力にあふれるフランス北西部の5つの村を新規取材・書き下ろしで加えました。アクセスや訪問ガイドも見直してパワーアップ。“旅のプロ”が案内するフランスの通な旅の入門書として、また、あたかも著者と一緒にまだ見ぬ村を訪ね歩くかのような紀行エッセイとして、読み応えのある一冊です。

◎『増補版 フランスの美しい村を歩く』の詳細はコチラ⇒


【寺田直子のハッピー・トラベルデイズ】
http://naoterada.exblog.jp/
ページの先頭へもどる
【てらだ・なおこ】
トラベルジャーナリスト。東京生まれ。日本及びシドニーでの旅行会社勤務を経て、フリーランスライターとして独立。旅歴約40年。訪れた国は約100カ国。ホスピタリティビジネス、世界の極上ホテル&リゾートに精通。雑誌、週刊誌、ウェブ、新聞などに寄稿するほか、ラジオ出演や講演など多数。豊富な取材経験を活かし、インバウンドを含め日本の地方の活性化、観光立国化に尽力、関連セミナー、ワークショップ、講演などに登壇するほか、山口県観光審議委員(~2017)、青森県の観光アドバイザーを務める。2013年、第13回フランス・ルポルタージュ大賞インターネット部門受賞。JATA ツアーグランプリ審査員(~2018)。Yahoo!Japan ニュース・エキスパートとして「サスティナブル」「レスポンシブル・ツーリズム」を軸に最新の旅トレンドを発信中。著書に「ホテルブランド物語」(角川書店)、「ロンドン美食ガイド」(日経 BP 社 共著)、「イギリス庭園紀行」(日経 BP 企画社、共著)、「泣くために旅に出よう」(実業之日本社)、「フランスの美しい村を歩く」(東海教育研究所)など。「ホテルブランド物語」は韓国で翻訳出版され、ホテリエたちの教本的存在になる。現在、東京都・伊豆大島を拠点に執筆のかたわら古民家カフェ Hav Cafe を運営。
新刊案内