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TOKYO偉人さんぽ
イラストレーター(文と貼り絵)
きりたにかほり
第1回 夏目漱石

初夏のはじまり、夏目坂。
東西線早稲田駅。
西口を出てすぐの交差点で待ち合わせ。
この先に、漱石の父が名付けたという夏目坂があるそうです。

「あついですねー!」

大きな地図の前でたたずむ2人の編集さんに話しかけました。

都内の小銀座を歩いてめぐった連載
「TOKYO銀座めぐり」の最終回から1ヶ月。
新たな散歩の始まりです。


道路を挟んだ向かい側、
江戸時代から続く酒屋「小倉屋」の脇で
早速、黒く輝く漱石生誕の地標を発見。

老舗酒屋に並ぶ生家といい、
夏目の名を冠した坂といい、
漱石はずいぶん名家の生まれだったのですね。

ゆるやかに続く上り坂の先、
次はその終焉の地、漱石公園を目指します。


早稲田に生を受け、
教師として都内各所の他、愛媛、熊本と各地を渡り
イギリスへも留学。
多くの地をめぐった漱石ですが、
晩年を過ごしたのもこの近くだったようです。


すると、手元の地図を眺めていた編集さん
「このあたり、お寺が多いみたいですね」と、ぽつり。

「へえ、なんでだろう?」と、わたし。

「行ってみましょうよ」と、もうひとり。


3人の散歩、だんだんたのしくなってきました。


あたりを見回し、細い小道の脇に「誓閑寺」を指す矢印を発見。
なにかの物語に登場するという鐘をまじまじ眺め、
その門を出たところで
あんず色の猫と目が合いました。

近づくほどに遠のく、シャイな吾輩。
生け垣の裏、日陰の方にゆっくり消えていきました。

それからも数多の寺たちを見比べて、
スイレンが咲く池のほとりでしばし休憩。
水浴びにきたスズメは、はしゃぐように羽ばたいて、
うれしそうにしぶきをあげていました。



うっかりのどかな遠回りを経て、約10分。
ようやくめざす公園に到着。
漱石の銅像に出迎えられました。

住宅街の脇、来年にむけて工事中の柵をよけ、
さらに進むと小さな建物を発見。

案内係の方でしょうか、中にいたおじさんから
「東京の中のくまもと」と題された
パンフレットを手渡されました。

漱石だから熊本か、と納得しながらパラパラめくって気づく
熊本にある漱石ゆかりの建物のこと。震災後、今の様子が気にかかります。

「世界中の漱石ファンが来るんですよ」と伝言ノートを取り出したおじさん。

「どこから来られたのですか」の質問に、
「新宿からです」と答えて
なんだか小さくなって建物を後にしました。

振り返って気づいたその場所の名は「道草庵」。

こころよい場でした。


「さてどうします?」の問いかけに
「原稿用紙が欲しいです」と申し出。

このまま進めば、飯田橋。
駅の近くにかつて漱石も通っていた文具屋さんがあるそうです。
当時と同じオリジナルの原稿用紙があるらしいとのことで、ぜひ欲しい。
名だたる文豪と同じ紙というだけで、立派な原稿になる気がしてきます。


ふたたび歩いて15分。
気づけばどうやら神楽坂。

カフェに肉まん、和菓子屋さん。
石畳の道には陶器屋、和雑貨、茶道具も。

道草の誘惑をなんとか退け、
ようやくたどり着いた緑の屋根の文具屋さん。

奥に進んでまずはお尋ね。

「夏目漱石が使っていたのはどれですか?」

大きなガラスケースの中、
伝統の原稿用紙は緑と赤と茶色の3種類が用意されていて
選択に困ります。

黒いエプロン姿の店員さんは一言。

「漱石は、今あるこれじゃない紙を使っていたようです。」

「え!売ってないんですか!」


なんてこったい、仕方ない。気持ちの問題。
ぐっと我慢を言い聞かせて
赤と緑の原稿用紙を買いました。


いつもよりゆっくりちぎって貼ってみます。

〈次回は樋口一葉ゆかりの地、本郷周辺を歩きます〉

【かもめ編集部から】
 “銀座”と名のつく商店街を訪ねる「TOKYO銀座めぐり」の最終回から季節がめぐり、イラストレーター・きりたにかほりさんの新たな散歩が始まりました。東京都内に点在する偉人、文人、名人にちなんだ街を歩く新連載「TOKYO偉人さんぽ」。「世界をあたためたい」と絵を描き続けているきりたにさんの、ポエムのようなエッセイと貼り絵をお楽しみください。


※きりたにさんのホームページ「たいようのみやこ」
http://taiyonomiyako.com/index.html
※きりたにさんの連載エッセイ「TOKYO銀座めぐり」
http://www.tokaiedu.co.jp/kamome/contents_i201.html
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【きりたに・かほり】
1984年秋田県生まれの香川県育ち。熊本県立大学卒業後に上京し、都内制作会社にデザイナーとして勤務。現在は「世界をあたためたい」と絵を描き、関東を中心にイラストの制作や似顔絵屋さんなど行っている。
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