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食べるしあわせ
味の決め手はこだわりの「塩」 ソルトコーディネーター
青山志穂
第4回 適塩生活のすすめ
 塩に含まれるミネラルは、私たちの生命維持に欠かせない大切なもの。大人の体の約60%は水ですが、そのうち約0.9%は塩。塩がないともともと備わっているミネラルバランスが崩れ、体の不調につながってしまいます。とはいえ、「塩分の摂りすぎは体によくない」ともいわれています。必要な塩分を摂りつつ、体内のミネラルバランスを保つにはどうすればいいのでしょう? そこにはちょっとしたコツがあるようです。

料理は薄味で、仕上げにパラパラっと

青山志穂さん(写真:編集部)

 世の中で「減塩」といわれる理由について、まずはご説明します。前回、塩を構成するミネラル成分にはナトリウムを中心に、マグネシウムやカリウム、カルシウムなどがあるとお話ししました。このうちの「カリウム」には体に溜まった余分なナトリウムの排出を促す働きがあります。逆に言えば、カリウムが入っていない塩はナトリウムの排出が促進されず、過剰摂取の状態になります。すると体内のミネラルバランスが崩れ、血圧が上がったりむくんだりしてしまうのです。

 ところが、日露戦争の戦費調達や製塩のコストダウンを目的に塩の専売制度が1905年に導入され、1971年には非効率な塩田の製塩から大規模イオン交換膜方式の製塩に全面転換し、「イオン交換膜を使用した塩しか生産してはならない」という法律が施行されました。これによって、日本の塩田は文化財としての価値を認められた奥能登の製塩所のみを残して完全に廃止。昔ながらの製塩法は姿を消しました。

 しかし、ミネラル成分が極端に少ない塩の安全性を疑問視する声が高まり、塩の元生産者さんたちによる自然塩復興運動が各地で行われました。地道な活動の結果、専売制度は撤廃。多くの製塩所の努力によって、日本人の健康を支えてきたミネラル成分たっぷりの塩が復活したのです。
 今も流通する「食塩」「食卓塩」「精製塩」は、ほぼ塩化ナトリウムだけで構成されています。「塩の摂りすぎは高血圧になる」「減塩」といわれ始めたのは、塩化ナトリウムだけの塩になった1970年以降です。それによって減塩醤油、減塩味噌も発売されました。
 ミネラル成分を多く含んだ塩が流通する現代では、「減塩」という言葉はふさわしくありません。もちろん腎臓に疾患のある方の塩の量は調整したほうがいいと思いますが、「減塩」ではなく、適切な塩の量を摂る「適塩」という考え方に各自治体もシフトしてきています。

薄味で料理して好みの塩で味付けを

 健康上のことも考えて私がおすすめしているのは、無塩もしくは薄味で料理をつくり、それぞれが料理を小皿に取り分けたあとで、自分の好きな塩を好きな量パラパラかけて食べること。わが家の食卓は「味付け自己責任」と言っていますが(笑)、テーブルにいつも塩を20種類ぐらいとオイルを何種類か置いておいて、薄味でつくった料理を「あとは自分で仕上げてね」と、食べる人にお任せしています。
 そもそも体に必要な塩分量は、体を動かしてたくさん汗をかく人と、そうでない人とでは違います。また、子どもは大人が思っているよりもずっと塩が必要です。体内の水分量は生まれたときが約80%で、老衰で亡くなるときはそれが30%ぐらいまで落ちるといわれますが、体内の塩分濃度0.9%は変わりません。体に必要な塩の量は、【体重×水分量×0.9%】。なので、子どもは水分量が多い分、体重が少なくても塩が必要になるのです。

お酒との組み合わせが健康にいい理由は?
 ところで、お酒と塩の組み合わせは健康上もいいことを知っていますか? お酒は種類を問わず利尿作用があるのはご存じのとおり。酔い過ぎないように水を一緒に飲むと、余計にトイレに行きたくなります。すると、体に必要なミネラルも一緒に排出されてしまうので、翌朝、体のミネラルバランスはめちゃくちゃ! だから、お酒を飲むと塩の効いたおつまみが欲しくなるのは理にかなっていて、「まずい、ミネラルが不足している!」という本能がしょっぱいものを食べさせるのです。たとえば枝豆はアルコール分解を助けるメチオニンが含まれているので、塩をかけて食べればスーパーおつまみになります。

 日本には昔から、塩を肴に日本酒を飲む“粋な飲み方”がありますが、これも理にかなっています。意外かもしれませんが、塩をつまみにビールを飲むのもおすすめ。カクテルのようにグラスのふちに塩をつけるスノースタイルもいいですが、「トレミー」と呼ばれるピラミッド型(中は空洞)の塩をつまみながら飲むと、サクサクとした食感も面白く、合わせる塩によってビールの新しい味わいが発見できたりして、楽しめると思います。

青山さんの自宅の塩棚

 お酒を飲んだ後の「締めのラーメン」が食べたくなるのもまた、本能がなせる欲求。麺の糖質もアルコールの代謝に必要な栄養素の一つです。ただ、残念ながらラーメンの脂質が胃に負担をかけてしまい、よくありません。ヘルシーに締めるなら、味噌汁がベスト。豆の糖質と味噌に含まれるミネラルを一緒に摂ることができます。わざわざつくるのが面倒ならば、味噌をお湯にとかして飲んでから寝ると、翌朝がとても楽になりますよ。それも面倒という人は、薄い塩水を飲むだけでも二日酔い対策になります。

 ちなみに、これから夏場に向かって熱中症予防で水をたくさんとる人も多いと思います。しかし、水だけを大量に飲むと体液が薄まってミネラルバランスが崩れ、気分が悪くなる場合があります。そうかといって、スポーツドリンクは糖分量が多く、日常でかく汗程度では糖質過剰になってしまいます。
 そこでおすすめなのが、0.5%程度の食塩水を持ち歩く習慣をつけることです。1Lの水に対して塩を5g溶かし、私はそこにミントとレモンを入れて持ち歩いています。ノンカロリーのヘルシードリンクとしてもおすすめですし、それを飲んでしょっぱく感じるようであれば、塩はこれ以上必要ない、体内に塩分が足りているサインなので、その日は水だけで十分。食塩水を飲んだときの自分の感覚をバロメーターに、塩分を上手にコントロールしてみてください。(つづく)

―― 先ほどの「味付け自己責任」の話、そうすれば家族の年齢や好みによって料理をつくり分ける必要がなくて楽! というのも青山さんのおすすめポイントだそうです(笑)。
 最終回は、ソルトコーディネーターの仕事についてうかがいます。

(写真提供・青山志穂、構成・宮嶋尚美)

【青山志穂_Official_Site】https://shiho-aoyama.com/
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【あおやま・しほ】
東京都生まれ。慶應義塾大学卒業後、総合食品メーカーを経て、塩の専門店「塩屋」を営む(株)パラダイスプランに入社。日々の業務の傍ら産地を訪問し、塩の研究を進めていく中で、塩に対する誤解や不理解を改善したい思いが強くなる。2012年、塩の正しい知識の啓もうを目的とした(社)日本ソルトコーディネーター協会を創立。国内外での講座やセミナーのほか、商品開発やアドバイザーとして活動。地域と連携し、塩を基軸とした地域活性化も手がける。訪れた製塩所は国内外合わせて延べ400カ所以上。自宅には2300種類以上の塩コレクションが並ぶ。著書に『日本と世界の塩の図鑑』『免疫力を高める塩レシピ』(あさ出版)ほか。
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