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食べるしあわせ
味の決め手はこだわりの「塩」 ソルトコーディネーター
青山志穂
第3回 使い分けるともっとおいしくなる
 この連載を読み始めて、「塩に興味を持った」「いろいろな塩を食材と合わせてみたくなった」という人もいるのではないでしょうか。「塩によって料理の味は変わる」と青山さんは言います。「塩は百肴(ひゃっこう)の将」という言葉もあるように、塩は食材のうま味を引き出すのに欠かせない存在です。そうであれば、どんな塩を持っていればいいのでしょう。最初にそろえるべき塩は? 素人でもわかる塩の選び方は? そんな疑問に答えてもらいます。

食材との相性が良ければ、少量で効く
 塩で料理の味を変えたいときに、いちばん簡単で家でも取り入れやすいのは、「同化」という料理の理論です。たとえば牛肉ステーキ。鉄分が豊富な牛肉には、同じように鉄分の入った塩がよく合います。鉄釜で結晶化させた塩や、ピンクソルトのように鉄分が含まれた岩塩も相性がいいですよね。「鉄」で「同化」させることで、少量でも、うま味の相乗効果が出て、濃厚なソースをかけたようなおいしさになるのです。「同化」には肉の鮮度・質の低さを隠してくれる効果もあるので、特売の牛肉が奮発したお肉の味に(笑)。鉄分の入ったクレソンやホウレンソウを付け合わせにすれば、さらにうま味の相乗効果がアップします。

牛肉ステーキには鉄分入りの塩を

野菜にはまろやかな塩を


 その反対で、うま味の強い牛肉ステーキに繊細な味わいの塩をかけてしまうと、いくらかけても塩が効かず、必要以上に量を使ってしまうことに。また、肉に合うしょっぱさの強い塩を野菜に使うと、野菜の甘味やうま味が消されて、口の中が塩の味だけになってしまいます。皆さんもレストランで、「このサラダ、しょっぱくない?」と感じたことはありませんか? それは食材と塩が合っていないからです。量を使いすぎず、素材も生かされて、食べる人が幸せになるためにも、塩にこだわってほしいなと思います。

塩の使い分けを楽しむ目安

 そこで、「家で塩の使い分けを楽しもう」と思ったら、まずそろえていただきたいのが、右の図のようなしょっぱさの異なる塩を4種類と、何にでも使いやすい「ど真ん中の塩」、合わせて5種類です。塩の粒が大きいものは「味の余韻が長く続く」、粒が細かいものやパウダー状の塩などは口のなかですぐ溶けるので「後味がスッキリする」と覚えておくといいですね。
 ど真ん中の塩は、普段づかいしやすいもの、形や大きさが標準的で水分量もほどよい、どんな食材にも合わせやすい塩がおすすめです。値段が高ければおいしいというものではないので、価格は気にせずお気に入りを探しましょう。

パッケージの裏をチェックすると、味が想像できる?
 では、図にあるようなさまざまな味わいの塩をどうやって選べばいいのでしょうか。塩のパッケージ裏にある成分表で、味わいの特徴をある程度判断することができます。
 ここには法律で決められたさまざまな表示が記載されています。そのうち、「食塩相当量」が記載された「栄養成分表示」を見ると、塩の味わいを左右するミネラルバランスが見えてきます。

青山志穂さん(写真:編集部)

 食塩相当量とは、食品に含まれる塩化ナトリウム量を食塩の量に置き換えたもので、塩化ナトリウム(㎎)×2.54÷1000で食塩相当量(g)が算出できます。塩のしょっぱさは塩化ナトリウムによるものなので、食塩相当量の平均値92~95g/100gを基準に、高いほど「しょっぱさが強い」、低くなるほど「まろやかなしょっぱさ」になり、選ぶときの目安になります。
 塩を構成する塩化ナトリウム以外のミネラル成分によって、苦味や甘味、酸味が出てきます。たとえば、マグネシウムが多ければ苦味、カルシウムが多ければ甘味を感じる塩になります。大まかに分類すると、【ナトリウム:単純なしょっぱさ】【マグネシウム:苦味、うま味、コク】【カリウム:酸味、キレの良さ】【カルシウム:単体では無味だが、相対的に甘味】【その他のミネラル:雑味】です。

 そして、ぜひ同じ食材を何種類かの塩で食べ比べてみてください。わかりやすいのは、トマトのように味の濃い食材です。食塩相当量の低いものだとトマトの濃厚な味わいに負けてたくさんかけてしまうし、逆に高くてしょっぱさが強いものだと、少量でトマトの甘さが引き立つことが実感できるでしょう。
 もとより食材の特徴は1つではありません。使う塩を変えればスポットライトの当たる位置が変わり、1つの食材でさまざまな味わいを楽しむことができます。たとえばAという塩をかけると甘味が強調され、Bという塩だとうま味が強調され、Cの塩だと酸味が強くなる。塩を変えることで、食材の味わいを余すところなく楽しむことができるのです。まずは家にある塩を並べて、試してみてはいかがでしょうか。(つづく)

―― 塩のパッケージ裏には、ほかにも塩の種類や原産地、製造方法などが書かれたものもあります。これらの情報から味を想像してみるのも楽しいですよ、と青山さん。次回は、「塩の摂りすぎは体によくない」「健康のためには減塩を心がけるべき」といわれる今だからこそ知っておきたい、塩が体に与える効果について聞きます。

(写真提供・青山志穂、構成・宮嶋尚美)

【青山志穂_Official_Site】https://shiho-aoyama.com/
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【あおやま・しほ】
東京都生まれ。慶應義塾大学卒業後、総合食品メーカーを経て、塩の専門店「塩屋」を営む(株)パラダイスプランに入社。日々の業務の傍ら産地を訪問し、塩の研究を進めていく中で、塩に対する誤解や不理解を改善したい思いが強くなる。2012年、塩の正しい知識の啓もうを目的とした(社)日本ソルトコーディネーター協会を創立。国内外での講座やセミナーのほか、商品開発やアドバイザーとして活動。地域と連携し、塩を基軸とした地域活性化も手がける。訪れた製塩所は国内外合わせて延べ400カ所以上。自宅には2300種類以上の塩コレクションが並ぶ。著書に『日本と世界の塩の図鑑』『免疫力を高める塩レシピ』(あさ出版)ほか。
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