シーラさんの話を聞いて、「あの着物、ちょっと出してみようかな……」と思い始めた人もいるのではないでしょうか? 最終回は、着物の未来を担う日本人へのメッセージを紹介します。また、初心者が着付け教室や着付けのプロのところへ行かなくても気軽に楽しめ、さらに「人と違うものが着たい!」というおしゃれ心を満たす着こなしのコツも教えてもらいました。―― シーラさんの話を聞いているうちに、私もなんだか着物を着たくなってきました。でも、母から受け継いだよそいきの着物が数枚あるだけで、休みの日にちょっと着て出かけられるようなものは持っていません。どこから始めたらいいのでしょう?シーラ 着る人がいなければ、着物は本当に芸術品になってしまいますから、着物人口のすそ野が広がるのは大歓迎です。だからこそ、いきなり呉服屋さんに行っていろいろ買いそろえるのはおすすめしません。今の呉服屋さんが扱う商品は、ほとんどが礼装なんです。洋服でいえば、シャネルやルイ・ヴィトンみたいなもの。普通の人が気軽に着られるのは、やっぱりユニクロ、しまむらでしょう(笑)。着物も自分の手の届く範囲で、最初は古着やウール、ポリエステル、木綿などの比較的安価な素材でも十分だと思います。
着付けも一からやろうとすると、すごく難しい。自分で着られない人は、それこそデニムとハイネックの上に好きなデザインの着物を1枚羽織って、腰紐1本、伊達締め1本、半幅帯でいいんじゃないかな。履物もブーツのままで。これ、実は私が寒い日によくやるコーディネートなんです。最初はハードルを下げて、まずは着物を楽しむことから始めてみてはいかがでしょうか?
―― 自分から敷居を高くする必要はないということですね。そこからスタートするなら私にもできそう。しかもすごくオシャレ!シーラ 私には息子と娘が2人いますが、先日は着物初心者の息子にデニムの着物を買ってあげました。綿だから安くて気楽に着られるし、洗濯機で洗って干せばOK。おそらく彼は、デニムのジーンズをはいた上にそれをまとうはずです。
―― ちなみに、シーラさんの今日のコーディネートは?シーラ 先日、近くの骨董市に行って1000円で見つけた小紋です。この着物の渦巻きの柄を帯のドラゴン柄とリンクさせました。それに、着物の柄に少し入っている朱色と同色系の小物をアクセントにして、ちょっと遊びを入れました。つながりのある模様や色を探して、ストーリーをつくっていく感覚です。
―― なるほど! つながりを大切にしているから、柄と柄を組み合わせてもうるさくならずに、しっくりまとまるんですね。最後になりますが、着物を着ることで生まれる楽しさについて聞かせてください。
シーラ 着物のよさは、人とつながれること。着物を着ることで家族とつながることもできるし、着物をつくった人や場所とつながることもできる。それに、着物で外を歩いたり、SNSに着物姿の写真を載せたりすると、「すてきね」と声をかけられることもあるでしょう。そんな人とのご縁から、自分では着ない着物を譲ったり、譲られたりすることも。東日本大震災が起きた翌年は、津波で家財を流された若い女性が無事に成人式を迎えられるよう、知り合いを通じて私も振り袖を何着か被災地に送りました。着物で誰かを笑顔にすることもできるのです。
皆さんが着物を着ることで、次世代の人たちに着物をつなげることも、着物の魅力を広げて世界中の人とつながることもできる。洋服にはできないつながりが生まれるはずだと信じています。
―― 一人で着るより二人。着物好きの仲間を見つけて一緒に着物ライフを楽しむ、というつながり方もありますね。着物に関する書籍の刊行や「箪笥開き」の研究(連載第3回)、2020年にイギリスで開かれる着物展覧会のプロデュースなど、今後の活動がますます楽しみなシーラさん。これからも着物の魅力を世界に伝えていってください!(構成:宮嶋尚美)