静かながらも着実に変化が起きているさまを「静かな革命」と表現することがあります。武装をして大声を出すことだけが、問題の解決につながるわけではありません。女性の新しい働き方の創造を目指す市川さんが考える「静かな革命」とは?子どもの成長を待っていると仕事がなくなる?
写真提供: 市川望美さん
以前、中学生のお子さんを持つ女性の方が「子どもに信頼してもらえない」と悩んでいました。進路相談をされても、母親である自分は外で仕事をしていないので、どう答えていいのかわからないというのです。
仕事を辞めて望んで子どものそばにいるのに、その結果、子どもが成長したときに人間として対等に付き合えなくなってしまう。さらに、今はIT化や機械化も進んでいて、仕事のあり方もすごいスピードで変化しています。「子どもが大きくなったらパートに出るわ」「スーパーのレジ打ちなら私にもすぐできる」なんて思っていると、その仕事にすら就けなくなる可能性もあります。
アメリカのノースカロライナ州にあるデューク大学の研究者であったキャシー・デビッドソンは、「2011年度に小学校へ入学した子どもの65%は、今は存在していない職業に就くだろう」と発表しています。テクノロジーの進化で、約20年後には単純作業の仕事がなくなっているかもしれないということですが、20年もかからないのでは、とも感じています。
ごはんの「ほか」に考えること
自分にできる仕事がなく、稼ぐことができない――親世代が社会の荷物になってしまうと日本全体を食い潰しかねません。私たち大人は皆、未来を生きる子どもたちに「つけ」を残したくないと思うはず。だからこそ、「子どもの目の前にある今日のごはんに心を配ることもすてきなことだけど、ほかにも考えること、やれることがあるはず」と、ポラリスのメンバーそして自分自身にしつこく問いかけています。
“ほか”となりうる未来を変えることのきっかけの一つとして、ポラリスで得る「最初の数千円」には大きな価値があると私は考えています。組織に雇われなくても、案件に手を挙げて仕事を得る。自分たちで仕事を創り出す。まずは、自分たちができることから始めることが必要なのです。
北極星も変わっていく
社名でもある「ポラリス」は北極星を意味する言葉。動かない星として昔から人々を導いてきました。でも、実際は地球の軸がずれているから何万年かごとに星が変わっていることを知っていますか? 今はこぐま座のポラリスが北極星だけど、白鳥座のデネブが北極星だった時代もありました。気の遠くなるような時間の流れの中では北極星も移り変わる。実はそれが私たちの真の願いなのです。
「短時間しか働けない」「子どもが熱を出したら仕事を休む」というと、現在の世の中の仕組みの中では甘えだとかビジネスではないと捉えられてしまうことがある。けれど子育て中の女性も、ビジネスマンと同様に「本気で働いている」ことに変わりはないはずです。10%の量でも100%の力を注いでいる。そこに甘えはありません。
北極星と同様に長い人生の流れの中で、考え方、働き方、生き方を変えてもらうきっかけをつくりたい。事実、ポラリスにかかわって心持ちが変わった人は多いと思います。でも皆さん、見た目は淡々と“主婦”をしていますよ。いつの間にか少しずつ変化していきながら、徐々に周りに影響を及ぼしていくのです。
「ゆるやかに本気で働く」という理想を掲げて、これからも世の中を「静かにこっそりと」変えていきたい。女性の未来を変える「静かな革命」が始まっています。
取材を終えて 日々、仕事と子育てに追われている私。でも市川さんの話を聞いて、無理をしなくては仕事と育児・家庭の「両立がかなわない」というこれまでの思い込みが覆りました。働くことに年齢も性別も関係ない! 一人の人間として、子どもや社会とどのようにかかわっていくか? 今回のインタビューを通じて、未来のために一歩立ち止まって考えることの大切さにあらためて気づかされました。
【非営利型株式会社Polarisのホームページ】
http://polaris-npc.com/(構成:坂井裕子、撮影:馬場邦恵)
*この記事は、株式会社リビングくらしHOW研究所が運営するライター・エディター養成講座「LETS」アドバンスコース17期生の修了制作として、受講生が企画立案から構成、取材、撮影、編集、校正までを実践で学びながら取り組んだものです。
【ライター・エディター養成講座「LETS」のホームページアドレス】
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