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食べるしあわせ
白い豆腐の多彩な世界 豆腐マイスター
工藤詩織
第2回 その土地に息づく、忘れられない味
「うちの豆腐も、ぜひ食べに来てください」。そんなひと言をきっかけに、全国各地の豆腐店を訪ね歩くようになったという工藤さん。第2回では、旅先で出会ったその土地ならではの風土や暮らし、人々の記憶が詰まった個性豊かな豆腐についてお聞きします。

おばあちゃんが守り続けるハレの日の豆腐
――工藤さんは、日本全国、北から南までさまざまな豆腐店訪ね歩いています。これまで訪れたお店は、どれくらいになるのでしょうか。

工藤詩織さん


 200軒以上でしょうか。「全国の豆腐店を制覇するぞ!」とリストを作って巡っているわけではなく、豆腐職人さんから「こんなお店もありますよ」と紹介していただいて訪ねることが多いですね。一度ご縁ができると何度も通うお店もありますし、豆腐の品評会などを通じて交流が始まることも多いです。豆腐業界って、横のつながりがとても温かいんですよ。

――これまで訪ねた中で、特に“地域らしさ”を感じた豆腐はありますか。

 とても印象に残っているのが、島根県益田市の真砂(まさご)地区で出会った豆腐です。真砂地区は人口300人ほど、過疎化が進んでいる山あいの小さな集落です。そこには昔から、祭りや祝い事のたびに女性たちが豆腐を作る文化があり、豆腐は“ハレの日のごちそう”として親しまれてきました。

城市フミさん(写真右)と工藤さん。真砂地区で一緒にすぼ豆腐作りのワーク
ショップを行った


 今も、昔ながらの作り方を受け継ぐ工房が豆腐を作り続けています。今年(2026年)5月に引退するまで、この工房の最年長の職人さんだったのが、80代の城市(じょういち)フミさん。フミさんたちが作っている豆腐の一つに「すぼ豆腐」という郷土料理があります。木綿豆腐を巻きすで巻いて、醤油やいりこだしで煮込む郷土料理で、ぐつぐつとしっかり火を入れるため、豆腐全体に“す”が入るのが特徴です。実際に食べてみると、本当においしいんですよ。日持するので、少しずつ切って食べることができます。

――すぼ豆腐。初めて聞きました。今もこの地域で広く作られているのでしょうか。

すぼ豆腐は巻きすで巻くため、見た目はかまぼこのような形をしている

 もともとは家庭料理でしたが、作れる人が少しずつ減っていって、今では真砂地区でも若い世代を中心に知らない人が増えているそうです。そこで昨秋(2025年10月)、地域の子どもたちに伝えようと、フミさんを講師に招いて、すぼ豆腐を作るイベントを開きました。すると、作りながらフミさんが「昔はお正月やお祭りのときに、お重に詰めて皆で食べたのよ」と話してくれたのです。
 今、豆腐は“ヘルシー”とか“美容にいい”というイメージで語られることも多いですが、フミさんの姿を見ていると、その土地の思い出や暮らしと結びついた特別な存在なのだと感じました。豆腐を通して、その地域の文化や歴史が伝えられていく。私も同じ体験をできたことが、とても印象に残っています。

憧れの豆腐を追いかけて
――紹介で豆腐店を訪ねることが多いとお伺いしましたが、ご自身から「どうしても行ってみたい」と思って訪ねたお店はありますか。

 学生のころから大好きだった豆腐があります。宮城県の蔵王温泉の近くにある社会福祉法人「はらから福祉会」が運営する「蔵王すずしろ」の「はらから豆腐」です。形がユニークなんですよ。普通の豆腐の2倍くらいの大きさで、ケースからはみ出したような形をしています。下は上の重みでぎゅっと締まっている一方、上はぷるぷるでやわらかい。一丁で違う食感を楽しめます。
 以前から大好きだった豆腐ですが、私がテレビ番組でこの豆腐を紹介したことをきっかけに、「よかったら宮城に来ませんか」と施設の方に声をかけていただきました。念願の工房見学が実現して、もう、本当にうれしくて。“推し活成功!” みたいな気持ちになりました。

はらからもめん豆腐。まるで2層の豆腐のように見える外観


――このユニークな形は、蔵王地域では一般的なものなのでしょうか。

 私も気になって、「どうしてこの形なんですか?」と聞いたことがあります。でも、作り手の皆さんも、実はよくわからないそうです。というのも、施設で豆腐作りをするとなったとき、技術指導に来た業者さんから、この形を教わったそうです。今では理由を知る人もおらず、「蔵王すずしろ」ならではの豆腐として受け継がれています。
 作り手の方に「上下で食感が違って楽しいですよね」と伝えたら、逆に驚かれてしまいました。作っている側にとっては当たり前すぎて、そこを特徴だとは思っていなかったようです。そういうところも面白いなと思います。

はらから豆腐を作っている工房の様子

職人気質の人が多いという豆腐店。「取材は信頼関係を築くのが大切」と工藤さんは語る

――「工房を見せてください」と工藤さんが訪ねたとき、豆腐職人の方はどんな反応なのでしょう。

 皆さん、親切で優しい方ばかりです。ただ、あまり自分のことを積極的に語るのは得意でない方が多いように感じます。実は私、自分からは決して聞かないように心がけている質問があります。それは、「こだわりは何ですか?」という質問です。職人さんにとっては、“どこの大豆をどれくらい使うか”とか、“どう作るか”とかは特別なことではなくて、毎日の当たり前だからです。

――では、いつもどのように職人さんから話を聞き出しているのですか?

 まずは、いつもの作業している姿を見せてもらいます。気になることがあっても、作業中にはあまり話しかけず、ひと段落したタイミングで少しずつ聞くようにしています。何度か通って、信頼関係ができて初めて、「どうして豆腐職人になったのですか?」とか、「後継者はどうされるんですか?」といった話も、少しずつできるようになりますね。
 でも、いちばん印象に残るのは、豆腐を一心不乱に作っているときに、ふと漏れるひと言だったりするのです。「俺は、こうやったほうがおいしいと思う」「豆乳も、濃けりゃいいってもんじゃないから」という、なにげないひと言に、その人が思う“おいしい豆腐”が表れている気がします。職人さん一人ひとり、考え方も個性も違う。それが、豆腐の世界の面白さだと思っています。(つづく)

――地域の人々にとって“ハレの日のごちそう”だったという「すぼ豆腐」。どんな味わいなのだろうかと興味が湧いてきます。次回は、時代の変化の中で新しい豆腐店の形を模索する豆腐職人の姿について語っていただきます。

(写真提供:工藤詩織、構成:小田中雅子)

★工藤詩織さんの公式instagramはコチラ⇒https://www.instagram.com/tofu_a_day
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【くどう・しおり】
1990年群馬県生まれ。豆腐マイスター、豆腐マイスター認定座学講師、食育豆腐インストラクター。幼少から豆中心の食生活を送り、豆腐がいつも暮らしの中心にある無類の豆腐好き。大学院で日本語教師を目指して勉強する過程で、食文化としての豆腐の魅力に目覚め、「豆腐マイスター」を取得。国内外で手作り豆腐ワークショップや食育イベントを実施して経験を積む。豆腐関連のイベント企画・メディア出演などを通して、各地で豆腐文化の啓蒙活動を行っている。著書に『まいにち豆腐レシピ』(池田書店)
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