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食べるしあわせ
白い豆腐の多彩な世界 豆腐マイスター
工藤詩織
第1回 豆腐って面白い!
冷奴、湯豆腐、味噌汁……。豆腐は、私たちのいつもの食卓に静かに寄り添ってくれる身近な存在です。けれど、その一丁一丁に込められた歴史や文化などに思いを馳せる機会は意外と少ないかもしれません。豆腐マイスターの工藤詩織さんは、幼いころから大の豆腐好き。それが高じて、今では全国の豆腐店を巡り、豆腐の魅力を発信し続けています。各地を訪ね歩く中で出会ったのは、地域の風土や文化に根ざした味わいや製法、そして時代の変化の中でも“おいしい豆腐”を作り続けようとする職人たちの姿でした。知っているようで知られていない豆腐の多彩な世界を、4回にわたって工藤さんにインタビュー。日本各地に息づく豆腐文化の奥深さをひもときながら、作り手たちの思いとともに、日本の豆腐文化の現在地を見つめます。


豆腐を食べに来ませんか?
――現在、日本各地の豆腐店や職人の方々と交流しながら、イベントやメディア出演を通じて豆腐の魅力を発信している工藤さん。2025年には大阪・関西万博の「豆腐万博 TOFU EXPO 2025」で総合プロデューサーも務めました。豆腐への“好き”を仕事につなげようと思ったきっかけを教えてください。

 本当に“豆腐が大好き”だったんです。子どものころから、家の冷蔵庫を開けると近所の豆腐店で買ってきた豆腐や豆乳が当たり前のように並んでいました。健康を気にしていた父がよく買ってきていて、私は牛乳より豆乳のほうが好きなくらいでした。

工藤詩織さん

 そんな大好きな豆腐を深く知りたいと思うようになったのは、大学に入ってからです。大学では日本語教師になるための勉強をしていて、留学生とも頻繁に交流をしていました。そのうち、宗教上の理由などで食べられるものに制限のある人でも、豆腐なら一緒に食べられることに気がついたのです。豆腐を通じて文化交流ができたら……。そんなとき出会ったのが、「豆腐マイスター」の資格でした。豆腐マイスターは、豆腐という食文化を広め、未来へと継承していく担い手を育成する民間資格で、原材料や製造方法だけでなく、歴史や文化についても学びます。

――資格取得のために勉強する中で豆腐についての知識を深めたのですね。豆腐への向き合い方も変わってきましたか。

 豆腐の奥深さを知ったのはもちろんですが、それ以上に驚いたのが、“街の豆腐屋さん”が、私が資格を取得した2013年当時、年間約500軒のペースで減り続けているという現実でした。店の人とおしゃべりしながら豆腐を買う。そんな昔ながらの風景が、気づけば当たり前でなくなっていく。そのことにがくぜんとし、「豆腐屋さんたちと一緒に自分も何かできないだろうか」と思うようになったのです。そこから豆腐の魅力を伝える活動を始めて、続けるうちにテレビや雑誌などから声をかけていただく機会も増えるようになりました。ただ、そのころは、まだ日本全国の豆腐店を巡ろうとは考えていませんでした。
 大きなきっかけは、あるテレビ番組に出演した後に届いた1通のメッセージでした。地方の豆腐店の方から「うちの豆腐もぜひ食べてみてください」とありました。それをきっかけに、少しずつ地方の豆腐店を訪ねるようになったのです。すると、地域によって、豆腐の製法も、職人さんがイメージする“おいしい豆腐”も違う。「豆腐って、こんなに面白いんだ!」。気がつけば、通っていた大学院を辞め、豆腐の世界に飛び込んでいました。

「秘伝」や「借金なし」、個性豊かな日本の大豆
――旅先でおいしい豆腐と出会っても、地域性まで意識する人は多くないように思います。豆腐の地域性はどんなところに現われるのでしょう。

 豆腐の地域性について考えるとき、大きく2つ視点があると思います。一つは大豆です。豆腐は大豆、水、にがりなどの凝固剤というシンプルな材料で作られています。だからこそ、原料となる大豆の違いが、そのまま味の違いに繋がります。ちなみに、日本には300~400種類の大豆があるといわれているんですよ。

奨励品種「フクユタカ」

在来種「秘伝」

――そんなに種類があるんですね。知りませんでした。

 私も豆腐マイスターになって初めて知りました。流通している大豆の大半を占めるのが奨励品種といわれるものです。各都道府県が、その地域の栽培に最も合っていると定めた“優等生”で、九州地方や東海地方の「フクユタカ」や宮城県の「ミヤギシロメ」などがあります。
 一方、地域で代々受け継がれてきた在来種もあります。在来種は見た目も個性的で、名前もユニークです。新潟県津南地方などで作られている「さとういらず」は、砂糖がいらないほど甘いことから名づけられました。山形県の在来種「秘伝」は“誰にも教えたくないほどおいしい”という意味が込められているそうです。埼玉県秩父市には「借金なし」という豆もあります。

――「借金なし」! 名前の由来が気になります。

 “借金を返せるくらい実りがいい”ことから名づけられたそうです。在来種は、味わいもそれぞれに個性があります。「秘伝」は枝豆のような香りがありますし、「借金なし」は栗みたいにほっくりした甘さがあります。在来種はその土地の気候・風土に適合し、育てられてきました。名前や味わいからも、その地域ならではの文化や歴史を感じることができます。

――大豆には、それぞれの土地ならではの個性があるのですね。大豆以外にも、豆腐の地域性を形づくっているものはあるのでしょうか。

 その土地の気候風土です。例えば、冬になると雪で閉ざされ、他の地域との行き来が難しくなる山間部では、豆腐は貴重なたんぱく源でした。富山県五箇山などで作られている堅豆腐は、その代表です。できるだけ水分を抜いて日持ちするように工夫された豆腐で、今でもその文化が受け継がれています。
 かたい豆腐で有名なものに沖縄の島豆腐もあります。もともとは海水を凝固剤に使っていた、海に囲まれた沖縄ならではの豆腐です。また、沖縄には出来たて熱々の豆腐を楽しむユニークな文化があります。沖縄の言葉で“アチコーコー豆腐(出来たての熱々の豆腐)”と呼ばれるものです。日本では食品衛生法の関係で豆腐は冷やして販売しなければなりませんが、沖縄に古くから根づく食文化を守るために、島豆腐やおぼろ状のゆし豆腐を温かいまま販売することが特別に認められているのです。

五箇山の固豆腐。出来たての状態。ここからさらに水分を絞っていき、縄で縛れるほど固くなる

沖縄の島豆腐作り。現在は衛生上の理由から、一部地域を除きにがりに塩を加えて固めている

沖縄の豆腐売り場。看板に書かれた時間は、アチコーコー豆腐の販売時間


――一方で、やわらかい豆腐が根づいている地域もあるのでしょうか。

 代表的なのは京都です。生粋の京都生まれの知人が「噛む豆腐は豆腐じゃない」と言うほど、なめらかでツルッとのど越しの良い豆腐が好まれています。京都の老舗店では、凝固剤にすまし粉(硫酸カルシウム)が使われます。これを使うと保水性が高くなるので、湯豆腐にしても崩れにくいのです。さらに、豆腐から水が出にくいので、だしが濁りません。京料理には“すまし”の美学があります。豆腐もその美学に適ったものになっているのです。
 このように、かたい豆腐を冷奴で食べる地域もあれば、京都のようになめらかさを大切にする地域もあります。どこの地域も“うちはこうです”と強く個性を主張しているわけではありませんが、全国を巡っていると、地域性があることを確かに感じます。

――300~400種類もあるという国産大豆。雪深い山間部や海に囲まれた地域で異なる豆腐の個性。あらためて、豆腐はシンプルだけど、奥が深い食べ物だと気づかされます。次回は、工藤さんが旅して出会ったユニークな豆腐についてのお話です。


(写真提供:工藤詩織、構成:小田中雅子)

★工藤詩織さんの公式instagramはコチラ⇒https://www.instagram.com/tofu_a_day
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【くどう・しおり】
1990年群馬県生まれ。豆腐マイスター、豆腐マイスター認定座学講師、食育豆腐インストラクター。幼少から豆中心の食生活を送り、豆腐がいつも暮らしの中心にある無類の豆腐好き。大学院で日本語教師を目指して勉強する過程で、食文化としての豆腐の魅力に目覚め、「豆腐マイスター」を取得。国内外で手作り豆腐ワークショップや食育イベントを実施して経験を積む。豆腐関連のイベント企画・メディア出演などを通して、各地で豆腐文化の啓蒙活動を行っている。著書に『まいにち豆腐レシピ』(池田書店)
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