本連載
第5回ではフランスの高校生が企画したフェスをご紹介しましたが、今回は大学生のお話です。舞台はフランスを飛び出し、お隣スイスへ。レマン湖畔の町、ローザンヌをヴォヤージュしましょう。
ローザンヌはスイスとフランスにまたがるレマン湖の北岸に位置する美しい町。「国際オリンピック委員会(IOC)」の本部が置かれていることから、「オリンピックの首都」とも呼ばれています。スイスではドイツ語、フランス語、イタリア語などの複数の言語が使われており、地域によって話される言語が異なります。西部にあるローザンヌはフランス語圏に属しているため、これまで何度か訪れてきました。風光明媚な景観が魅力的な町ですが、坂がとにかく多くて、歩くのはなかなか大変です(笑)。
そんなローザンヌで2025年2月、私に出演のオファーをしてくださったのが、日本文化フェスティバルの「JAPAN IMPACT」(ジャパン・インパクト)です。主催はスイス連邦工科大学ローザンヌ校(EPLF)とその学生協会(AGEPOLY)。つまり、大学生たちが中心となり、大学のキャンパスで運営するイベントです。
実は会場に向かうまでは、正直あんまり期待していませんでした。「どうせ学生が企画する“お祭り”だろう」、なんてちょっと偉そうに思っていたわけです(笑)。ところが、実際に参加してみると、その印象は一変。何より驚いたのはプロ意識の高さでした。

ホテルの部屋に用意されていたメッセージカードとチョコレート
最初の感動は、開催前日の金曜日に現地入りしたときのこと。ホテルにチェックインし、部屋に入ると、「JAPAN IMPACT一同より」というメッセージカードとともにウェルカム・チョコレートが用意されていました。さすが、チョコレ―ト王国スイスなんて思いながら、本番はまだだというのに私のテンションはアップ! だって、このようなオモテナシはこれまでにあまりなかったですからね。
部屋で少し休憩した後、今度は学生スタッフの方がフェス会場を案内してくれました。すでにいろいろな場所に看板が取り付けられ、教室はアクティビティーごとに見事にデコレーションされています。その手づくり感と完成度の高さは半端ない! ここまで準備するのに、どれほどの手間と時間がかかったことでしょう。
フェスの内容は、日本のアニメーションやゲームはもちろん、最新のゴジラ映画に加え、苔玉や製本のワークショップ、漫才など、老若男女を問わず楽しめるアクティビティーが盛りだくさん。若いクリエーターたちによるブースも多数あり、当日はどこも活気に満ちていました。私は、落語アトリエ(ワークショップ)と落語の歴史や漫画翻訳に関する講演を担当。日本から招聘された声優さんの専属通訳も務めました。そんな中、ある参加者から思いがけない声をかけられたのです。
「私は教師をしているのですが、生徒に落語を教えたいです。ぜひレッスンをしていただけませんか?」
とてもうれしい申し出でしたが、「日本在住なので難しいかもしれません」とお伝えしたところ、なんとそれがきっかけで話が進み、現在では週1回のペースでオンラインによる落語レッスンを実地しています。
こうして土日2日間にわたって開催された第16回「JAPAN IMPACT」は、来場者1万2500人という盛況で無事に終了。キャンパスに入場できる上限人数は1万5000人とされていたので、その数字に迫る勢いでした。フェスが終わった日曜の午後6時から深夜にかけて、今度は片付けに大忙しの学生スタッフたち。というのも、翌月曜から1週間のテスト期間が始まるのだとか。本当にお疲れさまでした!(つづく)
【シリルの豆知識 ●スイスのローザンヌ編】
日本では、座って話す「シットダウン・コメディー」の落語が楽しめる会場のことを「寄席」と呼びます。一方、立って話す「スタンダップ・コメディー」が主流のヨーロッパで、それに当たるのが「コメディー・クラブ」です。特にフランスには数多くのコメディー・クラブが存在しますが、実はお隣のスイスにもたくさんあります。私はローザンヌで初めて落語を披露したのは2017年のこと。「リド・コメディー・クラブ」という会場でした。
ちなみに、同じスイスのレマン湖畔でも東端にある町、モントルー(Montreux)は、毎年7月に開催される「ジャズ・フェスティバル」が世界的に有名ですが、実はもう一つ大きなイベントがあります。毎年11・12月に実施されるモントルー・コメディー・フェスティバル(Montreux Comedy Festival)です。ヨーロッパ最大規模のコメディー・フェスティバルとして知られ、長い歴史を誇ります。2025年は第36回を迎える予定です。(写真提供:Cyril Coppini)
☆シリル・コピーニさんがフランス語で落語を披露するときのコツや面白さを語る
連載【落語はトレビアン!】はこちら→
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