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美しいくらし
五感が目覚めるサバンナライフ 南アフリカ政府公認サファリガイド
太田ゆか
最終回 日本人サファリガイドとしての夢
 南アフリカに暮らし、その生態系を肌で感じてきた太田ゆかさんが日本語でガイドするサファリツアーは、日本から訪れる観光客にとってはリアルなサバンナを体験し、その現状を深く学べる貴重な機会。アフリカまで足を運べない場合も、バーチャルサファリで野生動物たちと出会うチャンスがあります。崩れかけている生態系のバランスを取り戻すために、太田さんの挑戦は続いています。


日本人の私だからできることで貢献したい
 日本人として何かプラスの価値を提供できない限り、私はこの国にいても意味のない存在になってしまう……。ガイドの仕事を始めて最初の3年間ぐらいは、そのことがずっと気になっていました。

太田ゆかさん

 当時は、私がいたエリアに日本人観光客が訪れることは全くなかったので、ヨーロッパやアメリカ、オーストラリアから来た人たちに英語でガイドをしていました。そのため、「これは日本人の私でなくてもできる仕事だな」と思ってしまう時期もありました。私自身は保護活動に携わりたくて、自分の夢を実現するためにサバンナにいたけれど、それは私のエゴでもあります。当初はボランティア団体に所属していたため住居や生活費以外のお給料はほとんどなかったのですが、それでも本来なら現地の人が雇われているポジションを私が奪っている面もあると感じていたのです。

 だからこそ、「日本人をガイドしたい」という思いはずっとありました。おかげさまで私の活動が日本のメディアに取り上げてもらえるようになって、日本からもたくさんの人にサバンナに来てもらえるようになったことが、私にとっては何よりうれしいことです。ようやく自分が南アフリカにいて、この国に貢献できているという実感が持てるようになりました。

 現地に住んでいるからこそできる説明がありますし、日本人ガイドがいることで提供できる情報やサービスもたくさんあると、実際に活動していて自分でも思います。その部分を上手に活用して、南アフリカにも地域環境にも貢献しながらサバンナを守る活動につなげていくことが、私にとっての理想の形です。

バーチャルサファリの配信中にアフリカゾウと対面


自然はすべてつながっている
 そのための第一歩として取り組んでいるのが、日本人向けのバーチャルサファリとクラウドファンディングです。この2つを始めたきっかけは新型コロナウイルスの感染拡大です。
 2020年には南アフリカでもロックダウンが始まり、ガイドの仕事も住むところも失ってしまいました。それでも日本に帰らずできるところまでやろうと、何とか粘って南アフリカに残り続けていたときのピンチの打開策となったのが、現地の映像制作会社と一緒に始めたバーチャルサファリでした。オンラインで日本にいても気軽にサバンナの世界を体験してもらえるバーチャルサファリは、日本の皆さんにも大好評。これがきっかけとなって、クラウドファンディングにも挑戦しました。

シロサイの角を短くする処置をして命を守る保護活動

 最初に挑戦したクラウドファンディングでは、サイの密猟取り締まりのための資金を募り、日本からたくさんの人が賛同して支援してくれました。そのおかげで、密猟防止対策のためにあらかじめサイの角を短くしておくという活動を現地で達成。これは日本人サファリガイドとして日本の皆さんと協力し、サイにも現地の人たちにも還元できた案件で、私だからこそできる貢献を実感できた最初の活動でした。ですので、サイには特別な思い入れがありますね。

 これらの経験を生かし、日本人サファリガイドとして現地にいるからこそ、そこで起きていることを身近に感じてもらえるように、これからも動物保護を目的としたクラウドファンディングやプロジェクトを積極的にわかりやすく情報発信することで、現地の保護活動と日本の支援者をつないでいきたいと考えています。そして、まずはサバンナの現状を知ってもらい、それがきっかけで日本での日々の暮らしに少しでも変化が生まれたらいいなとも願っています。

 例えば、動物たちが住む地球環境を守るという観点から、「日々の生活の中で環境に優しい選択を意識する」「買い物のときにフェアトレードの商品を選ぶ」といったことは、日本にいても実現しやすいのではないでしょうか。
 自然はつながっています。地球に住む私たち全員が意識をしていくだけでも違ってくると思うのです。動物保護や環境保全に関することがみんなの会話に自然と出る身近なトピックになって、「意識が高い」からではなくて、むしろ「意識が足りないと恥ずかしい」という感覚に社会全体が変わっていってほしいですね。
 とはいえ、サバンナを守るためにできることは、やはり「サファリを体験する」こと(笑)。ぜひ一度、サバンナに来てください。まだまだ夢半ばですが、「死ぬまでサバンナで働き続ける!」。それが私の夢です。(おわり)

――20歳のときのアフリカでのボランティア活動から、多くの壁を乗り越えて南アフリカで日本人女性初のサファリガイドとして未来を見据える太田さん。今回、案内してくれたサバンナでのサファリ体験で得られる感覚や気づきは、私たちだけでなく、地球の未来を担う次世代の新しいライフスタイルを考えるきっかけになるのかもしれません。

(写真提供:太田ゆか、構成:尾高智子)

★太田ゆか オフィシャルサイト【Yuka on Safari】 https://yukaonsafari.com/about/
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【おおた・ゆか】
1995年アメリカ、ロサンゼルス生まれ。神奈川県育ち。立教大学観光学部在学中に南アフリカ共和国のサファリガイド訓練学校に入学。日本人女性で初めて南アフリカ政府公認サファリガイドの資格を取得する。2016年からクルーガー国立公園エリアでサファリガイドの活動をスタートし、野生動物保護や密猟対策の活動にも取り組む。現地の様子をサバンナから生配信するバーチャルサファリをはじめ、Podcast やYouTube、SNSなどでも発信し、サバンナの魅力と現状を日本にも伝えている。著書に『私の職場はサバンナです!』(河出書房新社)。
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