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食べるしあわせ
やっぱり私は味噌が好き 実践料理研究家・みそ探訪家
岩木みさき
後編 味噌の可能性は無限大
 料理研究家として活動を続ける傍ら、日本全国の味噌蔵を探訪し、そこで出会った造り手の素顔とこだわりの味噌を『にっぽん味噌蔵めぐり』(東海教育研究所)にまとめた岩木みさきさん。インタビューの後編では、調味料としての味噌の魅力やこれからの目標を聞きました。

―― 「料理家としての興味関心から味噌蔵めぐりを始めた」と教えてもらいましたが、現在では岩木さん一人の活動に留まらず、百貨店での催事や味噌造り体験教室など、味噌蔵の皆さんも巻き込んだ大きな輪となって広がっています。

味噌業界全体で力を入れている海外への輸出促進の取り組みにも、さまざまな形で協力している(写真は2019年、ベトナムでの味噌セミナー)

 おかげさまで味噌蔵めぐりを始めて8年の間に、オンラインでの味噌造り体験教室や、大阪・梅田の阪神百貨店での「木桶による発酵文化サミットin阪神」への参加など、味噌蔵の皆さんと力を合わせてさまざまな活動を実現させることができました。もちろん、最初から計画的に考えていたわけではありません。味噌蔵めぐりを続ける中でさまざまな人と出会い、「この人とこの人がつながると面白いことができるのでは?」とか、「こんなことをやったら、この人の仕事にプラスになるのでは?」と思いつくと、すぐにご縁をつなぎたくなるのです。誰かの役に立つことをやりたいというと気持ちが、私の根っこにはあるのですが、ちょっとおせっかいですよね(笑)

 でも、このおせっかい。最初はボランティアで勝手に行動に移していたのですが、有難いことに、そのうちに私自身の仕事にもつながってくるようになりました。根拠はありませんが、目の前にいる人たちの役に立つことに全力で取り組んでいれば、たとえ自分の仕事を後回しにしていたとしても、ぐるりと回っていつか自分自身もちゃんと幸せになれる形で帰ってくるのだと思うのです。そんな幸せのサイクルを運んできてくれた味噌と、味噌蔵めぐりを通じて出会った造り手の皆さんには、心から感謝しています。

―― 岩木さんは8年間で100カ所以上の味噌蔵をめぐり、さまざまな味噌に出会ってきました。これまでに食べた味噌は600種類以上にものぼるというから驚きです。料理研究家として「味噌」という調味料を見たとき、その特徴、魅力は何だと思いますか?

 料理という視点で語ると、味噌には8種類の要素があると考えています。まずは粘性です。醤油や酢のようにほとんどの調味料は液体で、粘性があるものはあまりありませんから、粘性は味噌の大きな特徴です。それから、味わいとしては味噌味、甘味、塩味、うま味、コク、これらにプラスして味噌独特の香り、色があります。「味噌を使った料理」というと、皆さんがまず思い浮かべるのはお味噌汁だと思いますが、それだけではもったいない! 少し視点を変えて8つの要素のいずれかを取り入れると、さまざまな料理に活用できます。

 例えば、肉じゃが。醤油の代わりに味噌を使用することもできます。味噌は水でのばせば醤油のように使えるのです。肉じゃがの場合は、塩味がしっかりしていて色が薄いタイプの味噌を使用するときれいに仕上がります。そういう発想で料理に取り入れていけば、使い方は無限です。どんなふうに使おうかと考えるのが「味噌遊び」みたいでおもしろいな、と私はいつも楽しみながらレシピを考案しています。『にっぽん味噌蔵めぐり』の中でも、グリーンカレーや鶏チャーシュー、ミルクプリンキャラメルソースなど、和食はもちろん、洋食やエスニック、デザートまで、バラエティーに富んだオリジナルレシピを紹介していますので、ぜひ皆さんにも作っていただきたいですね。

グリーンカレー

ミルクプリンキャラメルソース


――個性豊かな味噌蔵の皆さんとのエピソードや、岩木さんおすすめの味噌について読んでいくうちに、味噌蔵めぐりに行ってみたくなりました。

 パンや焼き菓子もできたての香りは特別だと思うのですが、味噌にもできたてのフレッシュな香りがあるんですよ。洋菓子店に入ると甘いお菓子の香りがしますが、味噌蔵にも独特のおいしい香りが満ちています。蔵には菌が棲みついているので、蔵ごとに独特の香りがあるのです。例えばワインの場合、同じ赤ワインでもベリーのような香りだったり、花のような香りだったりと、ワインによってさまざまです。味噌も同じで、味噌固有の香りがありつつも、ナッツっぽい香りやチョコレートのような香りといった多彩な香りがあります。
 この多彩な香りを楽しむには、味噌蔵を訪れるのが一番です。とはいえ、ほとんどの味噌蔵は少人数で切り盛りをしているため、見学不可の蔵もありますし、アポイントなしの訪問は基本NGです。必ず事前に蔵のホームページなどで確認をしてから訪れてください。

――インタビューの最後に、これからの目標を教えてください。

 味噌蔵めぐりを始めたころよりは少しゆっくりしたペースですが、今でも時間を見つけては全国の味噌蔵めぐりを続けています。でもこの本を書いている途中で、味噌や味噌蔵と私との関係って何だろうって悩んで書けなくなったことがありました。私の好きで始めた味噌蔵めぐりですが、味噌の造り手さんや味噌業界とどのように接したらいいのだろうか、自分は何のために味噌蔵めぐりをしているのだろう、と考え込んでしまったのです。
 けれど本が完成して思うのは、味噌蔵の皆さんの役に立ちたいということだけでなく、私は味噌が大好きで、楽しいから味噌蔵めぐりをしているということです。そのことにあらためて気づいてからは、ただ単純に「味噌が好き」という真っすぐな気持ちで味噌と向き合うことができるようになりました。

多彩で味わい深い味噌の魅力をひもとく『にっぽん味噌蔵めぐり』定価2200円(税込)

 私の今の目標は、「料理」という私の得意分野をこれまで以上に生かして、現代の食卓事情に合わせた味噌の使い方やレシピを提案することで、味噌の活用の幅や可能性を広げるお手伝いをしていくこと。これからも味噌蔵の皆さんと手を携えて、味噌の魅力を発信していきたいですね。(おわり)

――日本の食卓に欠かせない調味料、味噌。身近な存在でありながら、私たちは味噌が持つ奥深い力をまだまだ知らないのかもしれません。日本各地に点在する個性豊かな味噌を訪ね歩く岩木みさきさんの味噌蔵めぐりを、これからも見守っていきたいと思いました。

【岩木みさきのみそ探訪記】https://misotan.jp/

(構成:小田中雅子)

【参加募集中】『にっぽん味噌蔵めぐり』刊行記念イベント
7/26開催 あなたの知らない味噌の世界


 新刊『にっぽん味噌蔵めぐり』の刊行記念イベント「あなたの知らない味噌の世界」を、2024年7月26日(金)19時30分から東京・台東区の透明書店で開催します。当日は、著者・岩木みさきさんが、味噌蔵めぐりのマル秘エピソードなど、本では紹介しきれなかった奥深い味噌の世界を紹介。猛暑を乗り切るための味噌の意外な利用方法やお手軽絶品レシピなど、知って得する情報も満載です!
 

◆詳細&参加申し込みはこちら⇒★

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【いわき・みさき】
1988年神奈川県生まれ。 「生産と消費を紡ぎ、すぐに実践できる健康レシピ」をテーマに、レシピ考案・撮影、料理教室を手がけるほか、47都道府県を探訪しての取材執筆や行政案件にも多数対応。ラジオやTV等のメディアにも出演。料理教室misa-kitchen主宰。日本の伝統調味料である味噌に魅せられ、日本各地の味噌蔵100カ所以上を探訪。これまで食べた味噌は600種以上にものぼる。著書に『奇跡の発酵調味料 みその教科書』(エクスナレッジ)、『1分美肌みそ汁』(学研プラス)など。
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