第5回 夫婦2人で歩む味噌の道㊤(加藤味噌醤油醸造元・青森県)
昨年の今ごろは、味噌をテーマにした初めての著書『みその教科書』(エクスナレッジ刊)を制作するために、取材で青森の味噌蔵をめぐっていたなぁ――。こんな世の中の状況だからこそ、ほんの1年前の出来事がより愛おしくなります。
青森に上陸したのはそのときが初めて。いつものように夜行バスを利用しようとすると、東京から青森へは直通がないことが判明しました。そこで、まずは宮城県の仙台に入り、そこから高速バスで青森県の弘前へ向かうことになったのです。
風格ある外観
歴史を感じさせる商標
青森県弘前市にある加藤味噌醤油醸造元は明治4年(1871年)創業。当時のままのたたずまいから歴史の趣を感じる、創業150年を迎える老舗の味噌蔵です。もともとは米や大豆などを扱う雑穀卸業から始まり、その後、集まった大豆で味噌や醤油を製造、販売するようになった歴史があります。
蔵の中には大型工場に設置されているような最新の機械などはなく、移動はすべて人力。道具はもちろん、蔵の梁や柱、木桶などの至るところにすんでいるたくさんの菌たちに、熟成を手伝ってもらっているといいます。
訪問時に対応してくれたのは、5代目の加藤裕人さんと諭絵(さとえ)さんご夫婦。諭絵さんが東京農業大学の醸造科学科に通っていたとき、他大学に通っていた裕人さんとアルバイト先で出会い、数年の遠距離恋愛を乗り越えて結婚。建設会社で営業の仕事をしていた裕人さんは会社を辞め、妻の実家の蔵元を手伝うようになったそうです。諭絵さんのお父さんで現代表の4代目、元昭さんに代わって、現在はお二人が中心となって製造と経営を担っています。
加藤さんご家族
製麹に使う麹蓋
冬に近い11月末のひんやりとした空気が建物全体に漂う中、ストーブをたいて私を出迎えてくれたお二人。温かいお茶を注ぎながら、「教えてほしいことがたくさんあります」と、メモ帳を片手に言いました。訪問の約束をするために私が電話をした後、インターネットで私の活動内容を調べて待っていてくれたようです。
お二人のほうが味噌に詳しいはずなのに、年下の私に対してとても謙虚な姿勢で向き合っていただいたことに感激。
私にできることがあるならと、木桶仕込みの味噌蔵をめぐっていることや、出会ってきた蔵元さんのこと、地域により味噌の製造方法や味わいが異なることなどをお話しすると、「貴重な話をありがとうございます。何より、私たちよりフレッシュな方が味噌について熱く語っていて、とてもうれしくなりました」とねぎらいの言葉をかけてくれたのです。
自分が学びたいと思い、好きでやってきた味噌蔵めぐりが誰かの役にも立つのだと、私もうれしくなったのでした。(つづく)
◆◆加藤味噌醤油醸造元◆◆
〒470-2544 青森県弘前市新寺町153
TEL:0172-32-0532 FAX:0172-35-6862
https://www.tsugaru-yamatou.com/ 明治4年(1871年)創業。津軽味噌は青森県産大豆「おおすず」と自家製米「つがるロマン」を使用し、室で2日間製麹した後、塩を加えて蔵の中でゆっくりと熟成させる。ほかに創業当時からの杉樽で仕込む醤油なども製造販売している。
(写真提供:岩木みさき)
★岩木みさきさんが味噌との出会いや奥深い魅力について語るインタビュー「今こそ伝えたい、味噌の力」もぜひお読みください。【実践料理研究家・岩木みさきのみそ探訪記】
http://misotan.jp