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にっぽん味噌蔵めぐり
実践料理研究家・みそ探訪家
岩木みさき
最終回 歩みはいつも仲間と共に(河野酢味噌製造工場・岡山県)
 「木桶仕込みの味噌を輸出促進する組織を作りましょう!」という話が農林水産省輸出・国際局・輸出支援課の方から私のもとへ舞い込んできたのは、2021年大みそかの数日前のことでした。味噌を仕込む際に使用する容器の一種である「木桶」を用いた昔ながらの味噌づくりは、現在も一部の味噌蔵で受け継がれていますが、その出荷量は全国の味噌生産量のおよそ1パーセント以下といわれています。

蔵に木桶が並ぶ河野酢味噌製造工場

 味噌蔵めぐりを始めた当初から、昔ながらの伝統製法ともいえる木桶仕込みの味噌を応援したいと思っていた私ですが、日本という国を背負って味噌の魅力を世界中へ伝えていくというのは、自分の想像を遥かに超えた壮大な話。輸出についてなんて全く無知だし、単純に「味噌が好き!」という思いだけでは携われない気がしました。
 状況的に答えはすぐに出さなくてはならず、ものすごく迷っていたそんなとき、「全国をめぐってきて、みんなとつながっているみさきさんだからできることだね!」と声をかけてくれた人がいたのです。そのおかげで、「そうか、味噌蔵の皆さんをつなぐことならできる! 役に立てる!」と思えて自分の役目がクリアになりました。
 こうして2022年2月17日、「木桶仕込み味噌輸出促進コンソーシアム」が発足。私は事務局長として味噌蔵の皆さんをつなぐサポート役を担うこととなりました。

5代目の河野尚基さん

 このコンソーシアムの会長になったのが、岡山県真庭市にある河野酢味噌製造工場5代目の河野尚基さんです。河野酢味噌製造工場は1888年(明治21年)に初代・河野清治郎氏が酢屋として創業して米酢造りを始め、のちに味噌と醤油も造るようになった蔵。同じ工場内で酢・味噌・醤油を製造しているというのも珍しいのですが、この蔵のもう一つの大きな特徴が、麹菌を自家培養していることです。
 一般的に味噌蔵では、「もやし屋」と呼ばれる麹菌を取り扱う店から麹菌を購入します。ところが河野酢味噌製造工場には麹菌を紡ぐ“秘密の日”があって、この日は親族だけしか作業に携われないというから興味が尽きません。こんな蔵、日本中探してもここだけなのではないでしょうか。

 それに加えて、造っている味噌も特徴的です。仕込みに使う米麹用の米を70パーセント精米することで雑味を減らし、日本酒の吟醸のように香る味噌を目指したり、仕込んだ味噌が完成する直前に米麹を追加して甘みを引き出す「追い麹製法」を行ったり、さまざまな工夫を凝らしています。
 「木桶で造る味噌は、木桶に棲んでいる菌たちによって個性が出るけど、うちの味噌はパッションフルーツみたいな香りがするんだよね。日によって、パイナップルとかバナナみたいに感じることもあるよ」と、とてもワクワクした表情で教えてくれる河野さん。実際に味噌のパッケージを開けてみると、華やかでフルーティーな香りが勢いよく立ち上がります。

仕込み用の米は70パーセント精米する

麹造りに使う麹蓋


 河野さんの蔵を初めて訪れたのは、私が味噌蔵めぐりを始めたころ。それから5、6年が経ち、今ではコンソーシアムで一緒に木桶仕込みの味噌の輸出促進活動をする間柄になりました。そんな中でよりいっそう感じているのが、「河野さんはいつも仲間と共に取り組んでいる」ということです。
 例えば、発酵にかかわる生産者が密集している真庭市の魅力をたくさんの人に知ってもらいたと、酢・味噌・醤油・ビール・ワイン・日本酒・フレッシュチーズを製造する地域の仲間と一緒に「まにわ発酵's」を2012年に結成。地元アーティストのライブを楽しみながら発酵食を楽しむイベントや、地元レストランとのタイアップなどを企画実施してきました。

筆者(右)と河野さん

 2019年には真庭観光局の皆さんと一緒に、真庭市の発酵の現場をめぐる体験ツアー「まにわ発酵ツーリズム」を実現。このツアーには私もアドバイザーとして協力させてもらっています。
 さらに2020年、21年には、木桶づくりの伝統技術を継承する「木桶職人復活プロジェクト」に参加。セレクトショップ「AKOMEYA TOKYO」と共同で味噌用の新桶づくりにも挑戦し、自ら木桶を組み、箍(たが)を編む作業にも取り組んでいました。

 「木桶仕込みの味噌を日本中、世界中、そして未来へ伝えていきたい」
 その熱い思いは、仲間を巻き込んで共に取り組むことで、さらに大きくなってスピードも増していく――。河野さんにかかわるたびに、いつもそんなふうに感じさせられます。そして、そんな河野さんだからこそ、これからの木桶味噌の世界を確実に切り開いていくに違いないと期待してしまうのです。(おわり)

―― 連載「にっぽん味噌蔵めぐり」が最終回となりました。全国各地の蔵元を探訪し、蔵人の素顔や丁寧に造られた味噌の奥深い味わいを紹介してくれた岩木さん。国内にとどまらず、多彩な味噌の魅力を世界に向けて発信していこうとする岩木さんのこれからがますます楽しみです。

◆◆河野酢味噌製造工場◆◆


岡山県真庭市久世267
TEL:0867-42-0102
https://kohno-honten.co.jp/2018

◆岩木さんセレクトのイチオシ味噌◆



味噌屋清治郎
【種類】米味噌
【配合】15割麹、食塩相当量10.5g
【色】黄色(熟成期間7~8カ月)

華やかな香りがする味噌はリピーター多し。オリーブオイルや柑橘類と合わせることで洋食への使い道が広がります。豚肉に合わせる使い方は絶対一度は試していただきたいです。

(写真提供:岩木みさき)

★岩木みさきさんが味噌との出会いや奥深い魅力について語るインタビュー「今こそ伝えたい、味噌の力」もぜひお読みください。

【実践料理研究家・岩木みさきのみそ探訪記】http://misotan.jp
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【いわき・みさき】
1988年神奈川県生まれ。10代のころに摂食障害や肌荒れに悩んだ経験から、食の大切さを実感して料理の道へ。病院栄養士として3年間勤務したのち、2012年に実践料理家として独立。その後、日本の伝統調味料である味噌に魅せられ、4年で日本各地60カ所以上の味噌蔵探訪を続け、その成果をWEBサイトやレシピ、イベントなどを通じて発信している。
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