フランスでは9月の第1月曜日が「Le jour de la rentrée(新学期の日)」。6月末から7月上旬に幼稚園や小学校、中学校、高校の授業が終わり、夏休みの間は宿題がないので勉強のことを忘れていっぱい遊んで、9月から新しい学年に上がるのです。学校が始まると私の頭を悩ませるのが、2カ月もの長い夏休みの間に勉強だけでなく早寝・早起きの習慣もなくなった子どもたちに、朝食をきちんと食べさせることです。子どもは特に好き嫌いが激しいので少しでも食べてほしい――これは世界中の親にとって共通の悩みではないでしょうか。
とはいえ、私は朝食を食べられない子どもでした。母がお昼にならないとおなかがすかない体質だったこともあって、とても少食だった私に無理やり朝食を食べさせなかったからです。ヘビースモーカーの父の朝食は朝6時。ノン・フィルターのゴロワーズという煙草2本と、砂糖2個のエスプレッソの組み合わせでした。だから私も食卓に座って朝食をきちんと食べなくてはいけないとは思わず、高校時代まではジュース1杯とクッキー2枚ぐらいしか口に入れずに学校に行っていました。ところが成長するにつれて昼食前にとても疲れて勉強に集中できなくなり、朝食を食べたほうがいいと思うようになりました。それから少しずつパンやヨーグルトやフルーツを食べ始めたのです。
焼きたてのクロワッサンは休日の朝のプチ贅沢
各家庭によって朝食の風景は少しずつ違うと思いますが、基本的にフランス人は「朝食を作る」ことはありません。チーズやハム、卵など、匂いや味が強いもの、しょっぱいものを朝から食べる習慣がないのです。火を通したり、食材を切ったり、洗ったりする必要がなくて本当に簡単。お母さんが早く起きて夫や子どものために朝食を作る風景は、フランスでは見られません。
バゲットやシリアル入りのパンにバター、ジャムや蜂蜜を塗って、大きなカフェオレボウルに入れた温かいコーヒーやココアなどに浸して食べるのが一般的です。私の夫の両親もずっとこのスタイル。これなら前日に買って硬くなったバゲットやパンもおいしく食べられます。
フランスの朝食というと、焼きたてのバターたっぷりのクロワッサンを思い浮かべる方も多いと思います。でもバターたっぷりのクロワッサンを毎日食べていたら太るし、値段も高いし、仕事や学校に行く前にパン屋さんにわざわざ買いに行くのは大変。ゆっくり時間が取れる週末のプチ贅沢です。
夫は子どものころ、パンと温かいココア、もしくはココアにシリアルを入れて毎朝食べるが大好きだったと言っていましたが、子ども用の朝食としてシリアルや甘いビスケットも人気です。私の子どもたちも朝からクッキーや甘いものを食べたがりますが、体に良くないし、それだけでは元気が出ないと思うので、いろいろ悩んだ結果、毎朝パンを食べさせています。
なぜかジャムや蜂蜜が苦手で、いちばん好きなのはチョコレートのペースト。「NUTELLA(ヌテラ)」というブランドが人気ですが、砂糖が多いだけでなく、健康面や地球環境にも影響を及ぼすといわれているパームオイルがたくさん入っているので、他のオーガニックメーカーのチョコレートペーストを選んでいます。朝の食卓では、見ていないと次男がチョコレートペーストをパンにたっぷり塗ったり、スープンで食べてしまったりするので要注意。それでもパンを食べておなかを満たして学校に行くことができるので、母親としてはひと安心です。
そしてもう一つ。先ほどのチーズで思い出すのが、17歳のときに交換留学で日本に行った際の出来事です。ホストファミリーへのお土産にカマンベールチーズを買って行ったらとても喜んでくれたのですが、なんと翌日の朝食にそのチーズが出てきたのです! 実は、私は匂いがきついカマンベールがちょっと苦手。しかも朝食にチーズなんて食べたこともありません。
当時の私は朝からサラダやスープ、ご飯を食べることさえ難しかったのに、そこにさらに、匂いがきつくて苦手なカマンベールの登場です。朝からチーズなんてとても無理だと思ったのですが、親切なホストファミリーをがっかりさせたくなくて頑張って食べたことを、30年経った今でもまだまだ覚えています。
それでも30年前から毎年のように日本を訪れているのでだんだんと慣れてきて、フランスの「甘い朝食」とは違う、日本の「甘くない朝食」が大好きになりました。体にもとてもいいので、今では毎朝のように目玉焼きやポリッジ(オーツ麦を牛乳や水でにたお粥)を作って食べています。(つづく)
【旅行中のアドバイス】
◆フランスではホテルの朝食に生野菜はほとんど出ません。5つ星ホテルにはプチトマトやキュウリのサラダぐらいあるかもしれませんが、3つ星や4つ星では難しいと思います。どうしても朝から野菜を食べたい場合、パン屋さんでランチ用のサラダを買うか、アパートホテルに泊まるのがおすすめです。キッチン付きのアパートホテルなら、マルシェで手に入れた新鮮な野菜を使って自分で手軽にサラダ付きの朝食が作れます。
◆朝食なしのホテルに宿泊する場合や、ホテルの朝食は高いし量が多くてそんなに食べられないと思う方は、カフェの朝食をぜひ試してください。フランス語で朝食は「Petit déjeuner(プチ・デジュネ)」と言います。いちばんシンプルで値段が安いプチ・デジュネは、コーヒーとクロワッサンのセット(場合によってはジュースが付くこともあります)。もう少しボリュームのある朝食を食べたい場合は、「Tartines(タルティーヌ)」(スライスしたバゲットなどのパンで作るオープンサンド)」とコーヒー、そしてジュースのセットがおすすめ。いちばん値段が高くて量が多いのが、卵やベーコンも付いた「アメリカ式の朝食」です。もちろんすべてのセットにバターとジャムが付きます。
【マイ コートダジュール ツアーズ】
http://www.mycotedazurtours.com/【mycotedazurtours Instagram】
https://www.instagram.com/stephanie_francetrip/『ニースっ子の南仏だより12カ月』
定価2200円(税込)
地元っ子ならではの視点で案内する
南フランス12カ月の暮らしと街歩きの楽しみ方
生まれ育ったニースを拠点に、日本人向け貸し切りチャーターサービスの専門会社を営む著者が、流暢な日本語を生かして綴る南フランスの日々の暮らしと街歩きの楽しみ方。1年12カ月、合計60のエピソードを収録。興味のある月やテーマを選んで気軽に読めるので、日々のちょっとした空き時間を使って太陽の光あふれる南仏コート・ダジュールを旅した気持ちになれる一冊です。4世代に伝わる家庭料理の簡単レシピも収録。
【Stephanie Lemoine】
1979年フランス・ニース生まれのニース育ち。高校で第3外国語として日本語を選択、大学はパリにある国立東洋言語文化学院(Institut national des langues et civilisations orientales)で日本語と日本文学を専攻。大学時代の1年半、東京学芸大学に留学。ニースを拠点にした日本語ツアーや通訳、各種コーディネートなどを提供する「マイ コートダジュール ツアーズ」に、日本語ドライバーとして2008年から勤務し、10年に社長に就任。フランス政府公認ガイド。日本でのお気に入りの場所は宮島(広島県)と湘南(神奈川県)。大好きな鎌倉で老後を過ごすのが夢で、2人の息子たちには毎日欠かさず日本の話をしている。