化石を通じた地域の活性化を目指し、さまざまな活動を続ける髙橋さん。取り組みによって町にはどのような変化が生まれているのでしょうか。そして、その先に描く未来とは? 化石のまちの今とこれからを聞く最終回です。
――Hookes発足から2年、髙橋さんが化石発掘体験を始めてから6年が経ちますが、町の皆さんにも化石のまちは浸透してきていますか? 化石への関心は徐々に高まっています。そう感じた大きな出来事は、地元の学校の授業に取り入れてもらえたことですね。4年前から小学校で出前授業をするようになり、今年(2024年)は初めて中学校からも講演の依頼をいただきました。今は、歌津地区の小学校2校、中学校1校で化石について教えています。小学校では理科の授業の延長のような形で、課外授業として実際に化石を発掘します。中学校では、総合学習の一環として「地域資源である化石をどう観光に生かすか」といったテーマも取り上げます。
出前授業で化石の発掘に挑戦する地元の子どもたち(写真提供:髙橋直哉)
――授業を受けた子どもたちからはどんな反応がありますか? なんといっても「こんなに身近なところに、こんなにすごいものがあったなんて知らなかった」と驚く子が多いです。「うちの庭にもある」と言う子も結構いて、あまりに当たり前すぎて価値に気づいていないという面もあるようです。「実はその化石は何億年前のもので……」と教えると、すごい!と一気に関心を持ってくれます。「もしこの化石を売ったらだいたいこれくらいの値段だよ」といった話も反応がいいですね(笑)。
「新種を見つけたい、化石に自分の名前を付けたい」と話す子もたくさんいます。以前はなかなか簡単にできることではないと思っていましたが、今なら私の名前が入った化石があるので、「頑張れば名前が付けられるかも」と実体験からの話もできますね。
――子どもたちのワクワクする顔が浮かびます。大人も化石に関心を持つ方は増えていますか? 少しずつ増えている感触はあります。活動に対して応援の声をもらったり、「家にこういう化石があった」と持ってきてくれたり、同世代だと「岩場で化石みたいなものを見つけた」と写真を送ってくれることもあります。
とはいえ、認知はまだまだです。ウタツサウルスのイメージから「化石といえば歌津」と思われることが多いのですが、南三陸町は沿岸部を中心にどこからでも化石が出ます。でも、歌津以外の地区にはそれを知らない人が多いのです。もっと言えば、歌津の人にも「化石が出るのは魚竜が見つかった辺りだけ」という局地的な印象があるようで、そこから少し離れた地区の方は「自分が住んでいるところは化石に縁がない」と思っていたりします。
発見された化石も、人知れず眠っているものが少なくありません。大きな理由は、展示場所がないこと。南三陸には他の地域では見られないような珍しい化石も多く、関東や福井の博物館で恐竜展などを開催する際に貸し出すこともあるのですが、そんな貴重な化石がこの町では収蔵庫に眠ったままです。被災した魚竜館にも魚竜化石が発掘された姿のまま残されていますが、施設が閉鎖されているため見ることができない状況です。こうした現状は本当にもったいないと思います。
――化石の価値を伝えるためにも、今取り組まれているような情報発信が重要なのですね。その中で大切にしていることはありますか?
地元中学生が考案した「地層ケーキ」もお披露目し、盛況だった化石シンポジウム(写真提供:髙橋直哉)
まず、わかりやすく伝えることですね。学術的な話は大人ですらすぐに理解するのが難しいので、頭にすっと入ってくる言葉を使った説明を心がけています。例えば「世界最古、日本最古」「日本でここだけ」といった話はパッと伝わります。地元の方には「お住まいの地区でも化石が出ますよ」と伝えると、「えー!」と言って興味を持ってもらえることもあります。私は研究者と一般の方の中間にいる立場だと思っているので、難しい話を簡単に、わかりやすく伝える役割を担えたらと考えています。
それから、化石の有効活用について考える取り組みも重視しています。昨年は、小中学生を対象に南三陸町の「新名物」のアイデアコンテストを開催しました。地元の特産物や、魚竜や化石をテーマにした応募作品が数多く集まり、今年1月に研究者を招いて開催した化石シンポジウムでは、歌津中学校の生徒たちが考案した「地層ケーキ」の試作品も披露しました。
隠れた化石スポット、歌津総合支所の化石展示室
今年の春に実施したのは「化石図鑑スタンプラリー」です。化石を展示している「かもめ館」をはじめ、南三陸町内10カ所の観光スポットに設置したさまざまな化石のスタンプを集めることで、化石に親しみながら町内各地に足を運んでもらおうという企画です。スタンプ設置場所の1つは町役場の歌津総合支所で、実はここに化石展示室があることは町民でも知らない人が多いと思うのですが、期間中はスタンプ目的で町外の方が来所することもあったようです。
――楽しく参加できるイベントは、化石に興味を持つきっかけになりますね。 化石の発掘もいろいろな場所でできるようになるといいと思います。それは研究者たちの願いでもあります。ウタツサウルスが発見されたエリアにもまだ珍しい化石が眠っている可能性が高いのですが、天然記念物に指定されているため簡単には調査ができないのです。それ以外の土地も当然持ち主の許可がなければ勝手にふれることはできません。しっかり調査すればさらなる新しい発見があるはずなので、発掘ができる場所をもっと増やしていけたらいいですね。
化石を活用することは、化石を守ることにもつながると考えています。貴重なものなので保護することも大切なのですが、その結果、誰の目にもふれなくなってしまっては意味がない。嚢頭類化石の産出地も、発掘体験や研究場所として活用することで日ごろからきちんと管理され、たくさんの目にふれて、結果として盗掘を防ぐことにもなっています。「保護しない保護」ともいえるかもしれませんね。
――化石そのものだけでなく、化石の価値も掘り起こす活動ですね。これから特にどんなことに力を入れていきたいですか? 目下の目標は化石ミュージアムを作ること。かもめ館の小さなスペースで展示できるのは価値ある資料のほんの一部なので、しっかりとした展示拠点を作りたいと思っています。資金面からなかなか簡単ではありませんが、かもめ館があるハマーレ歌津の商店街でも声を挙げてくれているので、そうした動きをさらに大きくしていければと思います。
同時に、化石の取り組みを南三陸全体に広げていきたいですね。歌津以外の地域の学校でも出前授業を行って、「自分が住んでいるところにこんなにすごい化石がある」と知ってほしいです。化石が地域に根づいていけば、発掘できる場所が増えるかもしれません。町内各地で化石の発掘体験ができれば、それこそペルム紀からジュラ紀にまたがる1億年分の地球史を辿るような、壮大な学びの場も作れるでしょう。それは自分たちが暮らす場所に愛着や誇りを持つことにもつながります。やっぱり地元に自慢できるものがあるのとないとでは意識が全然違うんじゃないかな。町の人にとって化石が自慢できるものになったらいいなと思います。そして化石をきっかけに、たくさんの人が南三陸に足を運んでくれたらうれしいですね。(おわり)
――すぐそばにあるけれど時に気づかない価値を掘り起こす取り組みは、まさに発掘作業のよう。地域を愛する人たちの思いを原動力に、化石のまちはより一層その魅力を増していくにちがいありません。生き物の謎に迫るような唯一無二の化石が眠る南三陸町。太古のロマンに心惹かれるなら、その手で化石を掘り起こしてみてはいかがでしょう。次に新種を発見するのはあなたかも!? (構成:寺崎靖子)