× close

お問い合せ

かもめの本棚に関するお問い合せは、下記メールアドレスで受けつけております。
kamome@tokaiedu.co.jp

かもめの本棚 online
トップページ かもめの本棚とは コンテンツ一覧 イベント・キャンペーン 新刊・既刊案内 お問い合せ
美しいくらし
ニースっ子の南仏観光案内 マイ コートダジュール ツアーズ社長
ルモアンヌ・ステファニー
最終回 お爺さんの要塞【アントロヴォー】

 コートダジュールの村々はかわいいだけでなく、長い歴史を感じられる場所もたくさんあります。

 2021年3月31日にフランスで第3回のロックダウンが始まりました。2020年の春のロックダウンよりは少しゆるく、外出できる時間の制限がなく、自宅から10km以内はある程度自由に移動できるようになりました。
 そして5月3日からは移動の制限もなくなり、好きなところに行けるようになったのです。飲食店は閉まったままでしたが、ちょうど4連休があったので、家族4人でわくわくしながら家族会議をして、どこに行くかを意見交換しました。最近、次男は小さな村が大好きで、お城や要塞が大のお気に入り。どうしてもお城のある村に行きたくて、長男が提案したのはアントロヴァー。「Oh oui?! On va ? Entrevaux!(そうだ、アントロヴォーに行こう!)」と皆大賛成しました。

 ニースからVAR(ヴァー)という川をさかのぼって70kmのところにあるアントロヴォーは、プロヴァンス鉄道に乗って1時間半ほど。アクセスが便利なのも魅力です。
 「谷の間」を意味するアントロヴォーは10世紀に設立されました。崖の上に要塞を立て、城壁で囲まれ守られてきたこの村は跳ね橋も有名です。

 要塞は20世紀まで利用され続けされ、第二次世界大戦のときにはドイツ将校の刑務所として使われました。
 兵士や戦争の話が大好きな次男は、要塞の見学をいちばん楽しみにしてアントロヴォーへ出発。カフェなどが閉まっているので、パン屋さんで全員分のサンドイッチと飲み物を買って、お昼前に到着しました。村の入り口にお城の見学受付がありましたが、ランチを食べてから行くことに決まっていたので、まずは川沿いの広い公園へ。その日は大変いい天気。青空に美しい形の雲が流され、芝生のグリーンときれいなコントラストでした。

 久しぶりに遠足ができたので皆とてもうれしくて、子どもたちはサンドイッチをほとんど食べずにすぐにブランコや滑り台へ。1時間ぐらい遊んでからそろそろお城に行こうと、次男を連れて公園を後にしました。村の入り口で入場料を払って、広場を渡って、崖のふもとの入り口を通ってから700メートルに続く険しい石畳の道を登って、標高156メートルのお城にたどり着くのが一般的なルートです。でも、受付に到着したら閉まっているではありませんか!? 

 営業時間を確認したら、この日は祭日で13時まで……次男は大変がっかりして、「お城に行けないの?」と何度も聞いてくるので、「ごめんね。事前に確認しなかったけど、今日は祭日なので午前中だけだったの。また絶対に来ようね。ママは約束するよ。今日は公園でいっぱい遊ぼう」と言って、公園で待っていた長男と夫に報告しました。長男と夫はサッカーをしばらくすることにして、次男と私はブランコへ。

 「今日はお城に登れなくて本当に残念。ママ、また来ようよ」とブランコに乗りながら私に言った息子に、「わかったわかった。家から遠くないし、いつでも来れるね」と答えたら、横でかわいい女の子の背中を押していたお爺さんが会話に入ってきました。「受付が閉まっても、お城に入れるよ。地元の人は絶対にお金を払わないんだ。みんな道を知ってる。森のほうから行けるんだよ」。

 びっくりしてお爺さんの顔を見て、「本当ですか?でも、ちゃんと入場料を入ってお城を見学したいので、また来ます。ありがとうございます」と答えたら、「ママ、行けるなら行きたい」と次男が興奮。夫と長男に「森のほうからお城に行けるみたよ」と私が言ったら、夫がお爺さんに声をかけました。
 「こんにちは、こちらの方ですか?」「はい、今はアンチーブに住んでるけど、俺の家族はずっとアントロヴォーだよ。休日や週末は孫を連れて、ここで過ごすのが大好きさ」「夫のお爺さんは刑務所の最後の指揮官だったのよ」と、一緒にいた奥さんが言い加えました。家族全員がびっくりしてご縁を感じて、お城への道を教えてもらいました。

 今日はお城に行けないと思っていた次男は大興奮。それに対し、「あの上まで登るのか。やだよ」と思春期に入って嫌がる長男。
 私は子ども時代に近くの村で夏休みを過ごしていたので、何回か入場料を払ってお城まで登ったことがあります。木影がなく、石ばかりで、正直言ってつまらなくて辛い道の経験しかありませんでした。でも今回は新緑の森を通って、甘い香りのする黄色いエニシダがきれいに咲く様子を楽しみながら歩いたので、距離があるのにあっという間に到着。

 つまらなさそうに登っていた長男が突然喜んで、中世と戦争の雰囲気がたっぷり残っているお城で次男と遊び始めました。次男が両手を合わせて銃の真似して、パパと3人で地下道を行ったりしていました。お城から見下ろす村と谷の絶景がすばらしいごほうび。たっぷり遊んで、説明をちゃんと読んでいろいろ学んだ後、村へ戻りました。

 すると、教会前でもう一度、公園のお爺さんに再会。「あら、お城に登ってきた?どうだった?」「道を教えてくれてありがとう。行ってみてよかったです」と私は答えました。気に入った人に出会うとすぐに名前を聞きたくなる6歳の次男が、「すみません、お名前を教えてくれませんか?」と尋ねると、「もちろん。Je m’appelle Jean-Noël. ジャン・ノエルと申します。あだ名はノノで、この村で誰でも俺のことを知ってるよ。苗字はペリーニ。ここの古い家族だよ。また来たらコーヒーを飲みに寄ってね。この家に住んでいるから」と言ってくれました。

 この原稿を書くためにアントロヴォーのお城についての資料を探したら、お城の最後の指揮官はJean-Baptiste Periniという方で、間違いなくノノさんのお爺さん。歴史がこんなに身近になるのが初めてで、家族全員が感動しました。(おわり)

★アントロヴォーへのアクセス方法
ニースからプロヴァンス鉄道で1時間半ぐらいです。

――地元ニースを知り尽くしたステファニーさんの連載、いかがでしたか? 通常の街案内とはひと味違う地元っ子ならではのエピソードに、素顔のフランスを垣間見た方も多いと思います。「日本が大好き」と話すステファニーさん。いつか彼女の案内でニースの穴場を旅することを夢見ています。(編集部)

【マイ コートダジュール ツアーズ】http://www.mycotedazurtours.com/
【mycotedazurtours Instagram】https://www.instagram.com/mycotedazurtours
ページの先頭へもどる
【Stephanie Lemoine】
1979年フランス・ニース生まれのニース育ち。高校で第3外国語として日本語を選択、大学はパリにある国立東洋言語文化学院(Institut national des langues et civilisations orientales)で日本語と日本文学を専攻。大学時代の1年半、東京学芸大学に留学。ニースを拠点にした日本語ツアーや通訳、各種コーディネートなどを提供する「マイ コートダジュール ツアーズ」に、日本語ドライバーとして2008年から勤務し、10年に社長に就任。フランス政府公認ガイド。日本でのお気に入りの場所は宮島(広島県)と湘南(神奈川県)。大好きな鎌倉で老後を過ごすのが夢で、2人の息子たちには毎日欠かさず日本の話をしている。
新刊案内