× close

お問い合せ

かもめの本棚に関するお問い合せは、下記メールアドレスで受けつけております。
kamome@tokaiedu.co.jp

かもめの本棚 online
トップページ かもめの本棚とは コンテンツ一覧 イベント・キャンペーン 新刊・既刊案内 お問い合せ
子どものこれから
未来と今を創る「子どもの権利」 早稲田大学教授
喜多明人
最終回 子どもの意思を尊重する社会へ
――子どもや若者が自己肯定感を高めてよりよく生きる力を身につけるために、どのような取り組みが求められるのでしょうか?

 自己肯定感低下の問題を解決するために大切なのは、子どもが意見を表明し、参加する権利をしっかりと保障することも大切です。子どもの意思を尊重し、やってみたいことや遊びたいことを先送りせず、達成感を得られるような活動を復活させることが求められます。特に子どもたちが長時間を過ごす学校内では、子どもの“やりたい”という思いを尊重し、存分に取り組める環境づくりを進めるべきでしょう。

 子どもの権利条約と日本の子どもたちとの関係で重要なのは、学校など社会の仕組みづくりや問題解決の際に、子どもの意志を反映させていくことだと私は考えています。
 しかし、少子化の影響もあって子どもの意見は反映されにくくなり、決定権はすべておとなが握っています。子どもたちの気持ちを尊重して社会に広げる努力をしないと、子どもも若者もさらに無力感を感じて埋没してしまうのではないでしょうか。自分の意見を表明し、さまざまな団体や社会に参加する権利を保障する――そうした権利の尊重こそが、子どもたちの生きる意欲や力を高めるために必要なのです。

 子どもが主役の学校づくりも大切です。学校のイベント運営や会議への子どもの参加はそのためにとても有効ですが、現実には保護者らから、「教師が子どもに任せてサボタージュしている」「子どもを甘やかしている」などといわれ、なかなか評価されません。失敗しても、たとえ間違ってもいいから子どもに任せれば、それによる自己成長がみられ、自主的に行動したからこそ得られる満足感や達成感、よろこびを見出し、さらに意欲的に取り組むようになります。
 実際に、そうした環境の中から世界へとはばたく人材も輩出されています。実例を積極的に広めることで、子どもが参加する権利への理解を促したいとも考えています。


――学校になじめず、不登校の子どもも増えています。

 人間は、そして子どもも、本来、多様性をもった存在です。それを理解せず、学校が画一化したままでは、不登校の子どもがさらに増え、子どもたちの可能性をつぶしてしまいかねません。不登校の社会問題化の背景にも、多様性を持った子どもたちがその意思を表明し、参加していく権利がしっかりと守られていない現実があります。

 本来は、学校だけでなく、学校外の民間教育施設であるフリースクールやシュタイナー教育、家庭を拠点としたホームエデュケーションなど、オルタナティブな学び(多様な学び)の場を提供し、子どもたちが学びたいことを自分に合った方法で学ぶ権利を保障することが社会の責任です。そのための法律が2016年12月にようやく成立しました(普通教育機会確保法)。オルタナティブな学びは韓国や台湾でも実績を上げており、そこで学んだ若者がさまざまな分野で活躍しつつあります。そういう人たちに経験を語ってもらい、多様な学びの場を広げていく努力も必要でしょう。

――子どもの権利を保障していくために、学校以外の分野で求められてることは? そして、今、私たちができること、するべきことは何でしょう?

 意見を表明し、参加する権利は、学びの場だけでなく家庭でも保障されるべきです。家庭では、子どもの自己決定を尊重する子育てのあり方が問われています。虐待を受けて親と離れた子どもも、できるだけ家庭と同様の環境の中で愛されて成長できるよう、里親制度の充実が求められます。
 
 また、地域でのまちづくりも大切です。自治体の権利条例や子どもにやさしいまちづくりなどの施策が本当に子どもに届いているか、そのために直接子どもに意見を聴くなど、子ども参加の評価検証システムづくりを進めている取り組み(例えば川崎市子どもの権利委員会)も進んでいます。条例や制度が実質的に子どもの権利に結びついているかを客観的に把握することで、条例などの実効性をさらに高めることができるでしょう。

 子どもの権利は、国連の課題として、人類の存続と発展を担ってきました。ですから子どもの権利の問題は、そもそも本質的な対立はあり得ないというのが私の考えです。条約締結30年、日本の批准25年の今、国も自治体も民間団体も、そして私たち一人ひとりが子どもの権利条約の本質的な意義を正しく理解し、子どもに関する課題にしっかりと向き合って、解決への歩みを進めていかなければなりません。子どもの権利を守ることが、人類の豊かな未来につながるのです。(おわり)

(構成:川島省子)

★子どもの権利条約のブックリストができました!



 

2019年11月20日は、子どもの権利条約が国連で制定されて30周年、日本批准25周年の記念の年です。これを祝し、19社の関連書籍や雑誌を紹介するブックリストが完成しました。「かもめの本棚」の絵本『はじめまして、子どもの権利条約』(川名はつ子監修)も、このブックリストに掲載されています。下記からダウンロードのうえぜひ活用してください。

「知ろう!読もう!生かそう!国連子どもの権利条約ブックリスト」

◆ダウンロードはコチラから⇒




ページの先頭へもどる
【きた・あきと】
1949年東京都生まれ。早稲田大学文学学術院文化構想学部教授。文学博士。日本教育法学会・教育政策学会理事。子どもの権利条約総合研究所顧問。子どもの権利条約ネットワーク代表。川崎市、目黒区、知多市、長野県などで子どもの権利条例制定に従事。『学校環境と子どもの発見』『子どもの権利 次世代につなぐ』(ともにエイデル研究所)など著書多数。
新刊案内