第1回、第2回では、中澤さんがものづくりに夢中になってからUPQを立ち上げるに至った思いや、多機能性ではなくトレンドを反映した「新しいものづくり」にこだわる背景について紹介してきました。最終回では、中澤さん自身のリーダーシップに対する考え方や、これからの社会におけるUPQの役割について聞きました。
――大手メーカーに比べて製品化のスピードも早く、少ない生産数で希少性の高いものづくりを実現していますが、協業体制はどのように組んでいるのですか?
8月9日には「UPQ」ブランド1周年記念新製品発表会が開かれた
商品企画とプロジェクトマネジャーの役割を私が担い、製造は主に中国などの海外の工場に外注しています。“1人家電メーカー”といわれることもありますが、決して1人で家電を作っているわけではありません。プロのデザイナーやエンジニアのほか、中国工場の生産ラインで働いている数百人と一緒に仕事をしています。つまり、同じ会社に所属はしていなくても、同じ仕事に力を合わせて取り組んでいる仲間がいる。大手メーカー内でも実際は同じ会社出身でないメンバーで1つの商品を開発していましたので、今と何も変わりません。その経験が今に生かされていますね。
――外注先の人たちが中澤さんと、同じエネルギーでUPQの製品づくりに携わるのは難しいような気もしますが……。 お互いに受注や外注という意識があるうちは、絶対にいいものはできません。特に中国工場を選ぶときは、そこの責任者や担当者に「あなたたちはUPQの製品を一緒に作る仲間」ということを理解してもらうことが必須です。生産ラインにいる数百人には「僕も、私も、UPQチームの一員だ」と認識しながら同じベクトルを持って仕事をしてもらいたい。
だから、日ごろからなるべく一人ひとりに声をかけて、ベクトル合わせを怠らないよう心がけています。魅力的な商品を作るチームに、所属や会社は関係ありません。私がUPQ代表としてガキ大将のように旗を振れば、きっと面白いものがつくれると信じています。
――そこまで仲間意識を大切にするのには、何か原体験があるのですか?
1周年を記念して、電動&折りたたみの軽量バイク「UPQ BIKE me01」専用の2WAYレザーバッグを発表
しいて言うならば、学生時代の体育祭や合唱祭で一生懸命に頑張って優勝したときの感動が、今でも残っています。合唱祭の練習中は、特に思春期だと恥ずかしがって「なんでそんなことをやるんだ」とそっぽを向いて歌わない子もいたりしますが、みんなで歌わなければ意味がないんだと、どんなに小さい声でも歌って参加してもらう。それで優勝さえすれば、そこに至るまでのつらいプロセスも忘れて、「みんなでやってよかった」という満足感が残るのです。
実は、それが会社員時代や今のUPQのものづくりにもつながっています。会社員として働いていたときも、製品が発売されるまで、企画、エンジニア、営業、みんながそれぞれの立場で、いろいろな部署のいろいろな人が、時にけんか腰になってしまうくらい熱い議論を繰り広げていました。でも実際に製品化されて市場で好評価を得られると、それまでのやりとりは忘れて、みんなで一体となって感動できる。生産活動をしていると発売されるまでの1、2年は長いと感じますが、それでもたった1、2年なんです。その期間にどれだけ頑張るかによって、結果が変わってしまう。結果が出てから後悔するよりは、その間は思い切りぶつかって、やれることはすべてやり尽くす。チーム全員でよいアウトプットをしたいと、いつも思っています。
――UPQを通じて、これから解決したい社会課題などはありますか?
ブランド1周年記念新製品発表会では、2WAYレザーバッグを共同開発した株式会社マザーハウス代表の山口絵理子さんと中澤さんとの対談も行われた
世の中のものづくりへのチャレンジの障壁をなくしたいです。たとえば、この8月に発売した電動&折りたたみの軽量バイクもその一つ。セグウェイなどの乗り物は、日本の法律下では公道を走ることはできません。今、世界中でスマートモビリティ(都市交通が抱えるさまざまな課題を解決する、新たな交通インフラのコンセプト)や様々な電動の乗り物が注目を浴びているのに、法律を前にするとメーカーがどんなに頑張って面白い便利な製品を作っても、単なるアトラクションにしかなりません。
それならば、国の法律に準じた原付バイクとして、「気になる!」と思える電動バイクを発売することで、「こういうものも面白いよね」というムーブメントを起こして将来的に法律のほうを変えていける力になればいいなと考えています。近い未来を見据えて、大きなルールの中で自分たちができることを精いっぱいやる。一歩を踏み出すチャレンジを、これからも続けていきたいと考えています。
――中澤さんにとって希少価値の高い製品を作ることは、メーカーの存在価値を変えることであり、世の中の仕組みを変えるきっかけを作ること。社会課題の解決という壮大なミッションに、自分が得意とするものづくりを通じて挑んでいます。しかも、チャレンジする対象は大きくても、あくまで自分たちは可能な限り小さい単位で。これからも新製品が発売されるたびに、その裏に隠された中澤さんの壮大な夢を探してしまいそうです。(構成:大橋礼子、撮影:馬場邦恵、編集:柏木真由子、古川佳奈)
*この記事は、株式会社リビングくらしHOW研究所が運営するライター・エディター養成講座「LETS」アドバンスコース17期生の修了制作として、受講生が取材、撮影、編集、校正などを実践で学びながら取り組んだものです。
【ライター・エディター養成講座「LETS」のホームページアドレス】
http://seminar.kurashihow.co.jp/lets