この連載もついに最終回となりました。
私は現在、動物系の大学での研究・教育を仕事にしていますが、それとは別に「家畜、特に産業動物の美しさを写真で残したい」と思い、家畜の写真撮影をライフワークとしています。この“はっぴーあにまる”という連載では、そんな家畜たちの姿を毎回ご紹介してきました。家畜に興味があった方も、あまり興味がなかった方も「家畜っていいなぁ~~~」との思いを持っていただけたら、私は“はっぴーフォトグラファー”になることができます。
写真には、動物たちの生活を紹介する短い文章をつけてきましたが、読み返してみると、普段のくせなのか、無駄に小難しい文章になってることに気がつき、写真とのギャップが大きい……と、大反省です。でも、最後は開き直って、少し私の専門に関係する話を、小難しく書いてみたいと思います。
私の職場である東海大学農学部では、生産性を重視して飼育を行っているわけではないので、比較的ゆったりと動物たちが生活しています。今回の撮影のために、普段と違う場所で飼育したり、動物を移動したりはしていません。動物たちは、この連載で見ていただいたままの生活をしています。
しかし、実際の畜産では、このような飼育を行うことは難しく、ほとんどの動物は狭い空間で生活しています。もし、彼らの生活を見てしまうと「かわいそう」と感じるかもしれません。もちろん、畜産動物の飼育担当者は(私たちの大学の卒業生を見てもわかりますが)無類の動物好きなので、できる限りストレスにならないような飼育を心がけているはずです。とはいえ、実際に産業動物の行動を観察してみると、異常行動が発現していたり、ストレスレベルが高いことがあります。
そのため、ヨーロッパを中心にアニマルウェルフェア(動物福祉)という考え方が生まれ、産業動物飼育であっても、ストレスレベルをできるだけ下げて飼育することが必要となっています。EUでは、アニマルウェルフェアを考慮した飼育が法律になっているのです。集約的な畜産の代表であるニワトリのバタリーケージ飼育や、ブタのストール飼育は、すでに法律で禁止されています。
さらにアニマルウェルフェアは、私たち人間の「動物がかわいそう」という気持ちで動物の飼育を考える(改善する)のではなく、動物の状態や行動を科学的に分析し、そのデータを元にして考えて行くことが重要です(なので「動物の幸せを考える科学」とも言われています)。
ただでさえ日本は土地が狭いため、産業動物の飼育が難しいのに、アニマルウェルフェアを考慮した飼育法では、ますます単位面積あたりの飼育頭数が少なくなります。その結果、今よりも肉や卵や牛乳の値段があがることになります。つまり、最終的には生産物を購入する消費者が、動物のストレスレベル向上にお金をだせるか?にたどり着くのです(EU圏の消費者は、その点について納得したようです)。
日本ではあまり騒がれていませんが、現在、アニマルウェルフェアはグローバルスタンダードになりつつあり、「私の国では興味がないので導入しません」では、すまなくなりそうな気配もあります。今後、必ずどこかの時点で、アニマルウェルフェアを日本に取り入れるか? 入れないか? を考える必要が出てくると思います(もしかしたら、アニマルウェルフェアを導入しないことによる経済・政治的なマイナス面も出てくるかもしれません)。そのときに、この連載をちょっと思い出していただけたらと思います。繰り返しになりますが、最終的に動物の幸せを考えるのは、動物を飼育している方々ではなく、私たち消費者です。
と、やっぱり堅い話になってしまいましたが、この連載の最大の目的は「家畜ってすごい!! かわいい!! 美しい!!」という感動をお伝えしたい!! でしたので、もう一度、この連載第1回目からの写真を眺めていただき、家畜の姿を楽しんでいただけたら幸いです。ありがとうございました。
ニュースなどで取り上げられていますが、この数カ月は阿蘇の中岳が噴火しています。最初はどうなることかと思いましたが、長年住んでいる方に聞いてみると、10年に1度程度の噴火が、阿蘇では普通のようです。ぜひ、皆さんも阿蘇の動物たちに会いに来てください!! そのときは、デジタルカメラを忘れずに!!
【かもめ編集部から】 15回にわたって連載した「はっぴーあにまる」も、ついに最終回となりました。毎回、伊藤先生から送られてくる動物たちのかわいい写真の数々に、編集部のみんなも癒されておりました。なお、伊藤先生の写真集『まきばなかま』では、ブタ、ウシ、ヒツジ、イヌ、ニワトリなど、個性的で興味深くて面白い、家畜たちの日常の「素顔」が満載です。WEBマガジンとあわせて、ぜひご覧ください。(ゆ)