× close

お問い合せ

かもめの本棚に関するお問い合せは、下記メールアドレスで受けつけております。
kamome@tokaiedu.co.jp

かもめの本棚 online
トップページ かもめの本棚とは コンテンツ一覧 イベント・キャンペーン 新刊・既刊案内 お問い合せ
TOKYO偉人さんぽ
イラストレーター(文と貼り絵)
きりたにかほり
第8回 林芙美子

裸木の枝も震える冬の午後。

待ち合わせたのは西武新宿線、中井駅。

『林芙美子記念館に行ってみましょう!』

今回は編集さんからの提案で決定した目的地。
舞台化されている『放浪記』などで有名な
昭和の小説家、林芙美子の家が
この近くに残されているそうです。

自由奔放な人だったと伝え聞きますが、どんなおうちかしら。


改札を出て、山手通りの下をくぐり抜けたら記念館まで一直線。

道中、右手に現れたのは「二の坂」、「三の坂」。
どれも上り坂のようですが、
「一の坂」は、いまいずこ?

不思議を抱えて目指した記念館は、
つづく「四の坂」の半ばにありました。

「わ、すてき! 玄関?!」

錠が掛かったかつての玄関は、木と土でできた滋味深い格子戸。
建物を支える石垣の上には、すっと伸びた背の高い竹。
静謐な日本庭園といった印象の家屋が垣間見えます。

予想外の造形に心をうばわれつつ、中に入ると、
『芙美子は格別の思いを持ってこの家を建てた』という説明文。

手入れしやすそうな庭からはもちろん、
数寄屋造りの内観、外観の美しさからも
今も息づく彼女の“こだわり”を感じます。


バラをのぞむ裏庭の中腹で、話し声に後ろを振り返ると、
白髪まじりの団体さんの姿が。

「今日はどちらからですか?」

えんじの帽子を被ったご婦人に尋ねると、

「横浜からね、64人で。多いから3つに分かれてね。」

と、穏やかに返答してくださいました。


表のほうでは庭木の中に、キツネノカミソリを発見。
名札の写真によれば、黄色い花を咲かせるようです。
先月の謎、うっかりひとつ解けました。


庭に面した部屋をひとつずつ覗いてスパイ気分。
当時から売れっ子だった芙美子のこと、
編集さんから隠れたのはどの部屋だったでしょう。

展示室に入ると、さきほどの団体さんの別班に出会いました。
あらかたの説明が終わった後、
亡くなる3日前に出演していたというインタビュー映像が流れはじめ、
今度はこっそり、遠足気分。

「先生は10代のころ、どういうお考えをお持ちでしたか」
と女学生。

「10代のころ、といったら、わたくしは絵描きになりたかったのです」
と答える芙美子。

美にこだわったこの住まいにも納得がいきました。


立派な記念館を後にしたら、
急な階段を登って、坂上通りへ。
地図を頼りに下落合まで一駅ぶん、歩いてみることにしました。

住宅街をぬけるまでに、
さきほど見つけられなかった「一の坂」とおぼしき看板が。

(よかった!)

ちょっとすっきりして
広く緩やかな新目白通りの坂を下ること約10分。
下落合駅に到着。

「あら? いい香り…。」

近くの公園を訪れると、梅の花がほころんでいました。
花の香りに顔をあげるなんて、幸せな終幕です。

「満足! ロールケーキを食べましょう。」

駅前にある花の名前の喫茶店で、
あっという間のこれからについて
長々と話し合ったのでした。


貼り絵も香るように描ければいいな。




※きりたにさんのホームページ「たいようのみやこ」
http://taiyonomiyako.com/index.html
※きりたにさんの連載エッセイ「TOKYO銀座めぐり」
http://www.tokaiedu.co.jp/kamome/contents_i201.html
ページの先頭へもどる
【きりたに・かほり】
1984年秋田県生まれの香川県育ち。熊本県立大学卒業後に上京し、都内制作会社にデザイナーとして勤務。現在は「世界をあたためたい」と絵を描き、関東を中心にイラストの制作や似顔絵屋さんなど行っている。
新刊案内